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EVシフトの米加州、電力需要まかなえるか

 

米カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事は9月23日、同州内でのガソリン車の新車販売を15年後に終了する知事令に署名した。

「化石燃料から再生可能エネルギーへ」の移行には制度変更が必須だ。そうしなければ企業やインフラや人々の意識は変わらない。カリフォルニアは制度変更を15年後に施行することを決めた。

 大変なのはここからだ。そして、これは日本も時間の問題で対面する現実だ。

 エネルギー業界のコンサルタントや研究者によると、カリフォルニア州を走る全ての乗用車とトラックを電気自動車にした場合、電力需要は25%も増える可能性がある。再生可能エネルギーへの移行が急速に進む中、既に計画停電が断続的に起きている同州にとって、電力需要の増大は大きな課題だ。

 カリフォルニア州は数百万人がフリーウエーを使って問題なく長距離を通勤・通学できるように、発電量を増やしたり、それに応じて送電網を強化したり、急速充電ステーション網を拡大したりする必要がある。バッテリー技術については、継続的な向上を期待するだろう。

 ガソリンから電気への燃料切り替えによる内燃機関の廃止は一斉に行われるわけではない。知事令が適用されるのは新車の販売で、それまでに販売されたガソリン車は何年もカリフォルニアの道路を走ることになる。ただガソリン車が禁止されることで今後、電力需要が増大することは確実だ。

 カリフォルニアでは既に今後数年にわたる電力供給の不足が予想されている。8月には熱波が米国西部を覆う中、同州の送電網事業者が2回の計画停電を実施し、問題が浮き彫りになった。

 送電網を運用するカリフォルニア独立系統運用者(CAISO)の広報担当者、アン・ゴンザレス氏は知事令について「送電網への影響について判断するのは時期尚早だ。具体的な分析や予測はまだ行っていない」と話した。

 現在、カリフォルニアでは夕方になると電力需給が逼迫(ひっぱく)する。太陽発電の発電量が減少し、エアコンのための電力需要が比較的高い水準にとどまるためだ。そうした中での車の充電は、あまりに多くのドライバーが同時に高エネルギーの急速充電を求めればどうなるか、という新たな問題を突き付けている。

 センプラ・エナジー傘下の公益事業会社で、360万人にエネルギーを供給するサンディエゴ・ガス・アンド・エレクトリックのキャロライン・ウィン最高経営責任者(CEO)は1日のうち特定の時間帯に車を充電するよう消費者を促すルールや料金が必要だと話す。ウィン氏によると、同社の供給地域では昼間の時間帯には常に余剰エネルギーが生じているという。そうした時間帯や夜中に充電するように消費者に動機を与えれば、多くの車に充電が必要になっても電力を安定供給するという目標を達成するコストは下がるだろう。

 ウィン氏は「問題を解決するためにはルールと市場をきちんとする必要がある」と話した。

 何百万台という新しい電気自動車が道路を走り始めるときに備えて、送電網は更新する必要があるだろう。電気自動車を所有する人の大多数は大抵、自宅で車を充電する。つまり、一つの地区に充電のために電力を引く住宅が複数あっても対応できるように変電所や配電回路を変更する必要があるということだ。カリフォルニア州の投資家所有の主要公益事業会社3社は現在、電力設備が重大な森林火災を引き起こさないように送電網の強化に数十億ドルを投入している。

 エネルギー・環境政策組織のロッキーマウンテン研究所で電気自動車と送電網の統合を研究するクリス・ネルダー氏は、送電網更新への投資にはそれだけの価値があると考えている。内燃機関からは非常に多くの廃熱と未燃焼炭化水素が発生し、排気管から漏れているからだ。電気系統を更新してエネルギー効率を改善すれば、電力料金が下がる可能性がある。「エネルギーシステムから生じる大量の無駄をなくすことで効率は大幅に改善される」とネルダー氏は言う。

 電気自動車の増加を単に課題とするだけでなく、チャンスと受け止める人もいる。ロサンゼルスで電気自動車の普及加速に官民で取り組む「交通電動化パートナーシップ」のマット・ピーターセン会長によると、電力需要が高水準にある中で、日が暮れ始めて太陽光による発電量が急激に減少する午後に、乗用車やバスなどのバッテリーから送電網に電力を送り、安定させることができるという。

 このアイデアは「ビークル・トゥ・グリッド」(V2G)と呼ばれ、英国やデンマークなど、電気自動車の普及を進めている多くの国で議論されている。

 「送電網につなぐ電気自動車の数が多ければ多いほど、より多くの再生可能エネルギーを送電網に流すことができる」とピーターセン氏は言う。

 電気自動車を普及させるにはバッテリーのコストを引き下げて電気自動車を手頃な価格にしなければならない。テスラのイーロン・マスクCEOは先週、2023年頃までに2万5000ドル(約263万円)のモデルができるとの見通しを示した。

 カリフォルニア大学サンディエゴ校の持続可能電力・エネルギーセンターで所長を務めるシャーリー・メン氏はバッテリーについて、今後も低コスト化、高性能化の流れは続くと考えていると話した。

「バッテリー技術の準備は整っていると自信をもって言える」とメン氏は話す。バッテリーの基本的な化学構造に新しい種類の素材や金属を使えるようになれば、コストが下がり、価格の低下につながるだろう。「バッテリーは今でも優秀だが、今後10年でさらによくなるだろう」

 全米コンビニエンスストア協会(NACS)が発足させた非営利の研究グループ「燃料研究所」のトップ、ジョン・アイヒバーガー氏は、市場と電気設備の準備が遅れる場合は、カリフォルニア大気資源局――ニューサム知事の知事令を実行するための新規則の策定を任されている――が予定を遅らせることを期待していると話した。

 アイヒバーガー氏は「われわれはインフラに関わるこうした極めて重要な問題について考える必要がある。なぜなら交通手段はなくてもいいものではないからだ」と話し、「必要なときにエネルギーが手に入ることを消費者に保証できるシステム」を構築する必要性を指摘した。

以上、Wall Street Journalより要約・引用しました。
https://www.wsj.com/articles/california-wants-cars-to-run-on-electricity-its-going-to-need-a-much-bigger-grid-11601036583?mod=searchresults&page=1&pos=2

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