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エアビー、コロナ破綻をいかに免れたか

 

中核事業への集中、経費削減、顧客の声重視

 今年3月、新型コロナウイルスの影響で米民泊仲介サイト大手エアビーアンドビーのブライアン・チェスキー最高経営責任者(CEO、39)には苦闘の日々が続いていた。エアビーがコロナ危機を乗り切れるかどうかという疑問に直面していた。欧州の予約は急激に落ち込み、3月第2週には前年比80%減少。米国でもシャットダウン(経済活動停止)が始まっていた。

データが「爆弾のように私のメール受信箱を襲撃した」とチェスキー氏は振り返る。「見たこともない数字だった」。その週末、同氏は緊急取締役会を招集した。

 ベンチャーキャピタル(VC)のセコイア・キャピタルやアンドリーセン・ホロウィッツのパートナーらがビデオ会議システム「ズーム」で参加した。それからも日曜にたびたび取締役会が開かれた。

 予約が壊滅状態のエアビーは予備資金を使い果たし、すぐにも現金を投入する必要があった。

 「9.11(米同時多発テロ)と2008年(金融危機)を合わせた以上の大打撃になる」。取締役会メンバーで元 アメリカン・エキスプレス CEOのケネス・シュノールト氏はこう発言したと記憶する。「あなたのリーダーとしての決定的瞬間だ」と同氏はチェスキー氏に述べた。

 3月26日夜、チェスキー氏は数千人の従業員と開いたビデオ会議をこう締めくくった。「あらゆる案がテーブルに上がっている」。解雇も含めてということだ。

 同氏はシルバーレイクとシックス・ストリート・パートナーズから10億ドルの融資資金を調達することを決め、さらに別の投資家コンソーシアムから10億ドルの追加融資を受けた。

 5月5日、同氏は1900人の人員削減を行うとビデオ会議で発表。伝統的なホテルや高級不動産を宿泊リストに加える野心的計画を縮小し、運輸やメディアといった新分野への進出を取りやめた。この時、チェスキー氏と共同創業者らは報酬を返上し、幹部は報酬2分の1カット。マーケティング費用を約10億ドル削った。それでも足りず、数百に上る費用項目を「1行ずつ」調べたという。

 チェスキー氏は投資家やアドバイザーに、これほど大幅な人員削減を強いられるのは二度とご免だと告げた。それを避けるため、この先も経費抑制を続ける考えを示したと、事情をよく知る複数の関係者は話している。

 解雇された従業員は会社のパソコンを手元に置くことを認められ、1年分の健康保険を付与された。また他社の採用担当者の目に留まるようオンラインで人材の一覧が公表されたほか、彼らの転職活動を同社の人事部が支援した。現・元従業員の数人がインタビューで、人員削減の対処法をみてチェスキー氏への敬意を新たにしたと話した。

 業界では、仕事関係の移動が個人旅行より早く回復するとの見方が一般的だった。直近で移動が制限された米同時多発テロの際にそうだったからだ。仮にその通りなら、競合企業の中でもホテル中心の ブッキング・ホールディングス や エクスペディア・グループ に有利となるはずだ。

 だがチェスキー氏は逆の予想をした。「9.11はズームより前の時代だから」というシンプルな理由だった。

 ホテル事業とは異なり、エアビーは不動産を一切持たなかった。間接費は低く、運営を続けるための最低稼働率も必要なかった。5月に入ると風向きが変わり始めた。外出を控える間の滞在先として、家族や学生、友人同士でエアビーを利用する人が増えた。また世界中で移動制限が緩和される中、大都市の住民は大手ホテルチェーンが進出していない近隣の町や都市に足を伸ばすようになった。新型コロナウイルスによるパンデミックの影響で、空の移動の極端な制限下における都市生活者は、飛行機で移動する必要のない近隣の町や都市にある宿泊施設を探し始めていた。家をまるごと借りることを希望する人も多かった。つまり、ホテルや共有スペースを敬遠する旅行者が、エアビーの収益源になり得るということだ。
チェスキー氏は直ちに戦略を転換。観光客に人気の大都市がエアビーの強みだったが、今度は地元滞在型の客に照準を合わせることにした。同社は6月までにウェブサイトやアプリを見直し、旅行客に自宅から程近い宿泊先を紹介するアルゴリズムを構築した。

 「10年分に相当する決断を10週間で行うことになるとは思わなかった」。チェスキー氏はインタビューでこう語った。

 同社によると、宿泊予約は7月8日にはコロナのパンデミック(世界的大流行)で旅行や観光がぱったり途絶える以前のペースに回復したという。また8月に予約された宿泊先の半数以上がゲストの自宅から480キロメートル以内にあった。

 

 業績回復を受け、エアビーは新規株式公開(IPO)の手続きを進め、7-9月期決算は黒字となる見通し。数カ月前には不可能に近いと思われた状況だと投資家たちは話す。

 今年の事業環境はコロナ流行以前のレベルには程遠く、旅行そのものの先行きも不透明だ。そのような環境の中で、チェスキー氏の迅速な思考と大胆な行動に感心させられたとの声は多い。

 コロナを機に旅行の概念は変わった。その変化は恐らく元に戻らないだろう。多くの企業がリモートワークを恒久的措置にするからだ。郊外に引っ越したり、世界を放浪したりする人が出てくるだろうとチェスキー氏は言う。たとえ職場に戻るにせよ、フレックスな働き方になるとみられ、近隣を旅する余地が生まれる。

 「旅行と仕事の線引きが曖昧になりつつある」とチェスキー氏は述べた。

 変化に後れを取らないため、迅速に動くことがコロナの第一の教訓だった。チェスキー氏は数カ月のうちにさらなる教訓を得た。マーケティングや人員配置、非中核プロジェクトに過度な出費をすべきでないことや、顧客の声に耳を傾けることだ。エアビーの場合、旅行者(ゲスト)と不動産オーナー(ホスト)の双方が顧客となる。

 チェスキー氏は過去数カ月の大半を1日16時間態勢で働き、愛用のデスクトップPC「iMac(アイマック)」からほとんど離れられなかったと話す。通話する時は、サンフランシスコの流行発信地ミッション地区にある自宅の屋根裏に設けた即席オフィスの中を歩き回る。時折、近所のドロレスパークのベンチに座り、取締役会メンバーと協議することもある。

 エアビーは最近、解雇した従業員のごく一部を呼び戻した。チェスキー氏は10月8日開催したオンラインの全社会議で、従業員ボーナス制度を復活させると発表した。

以上、Wall Street Journalより要約・引用しました。
https://www.wsj.com/articles/how-airbnb-pulled-back-from-the-brink-11602520846?mod=searchresults&page=1&pos=1

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