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バフェット氏の日本商社出資、90歳でバリュー投資

 

5社のバリュエーションはきわめて低い

由緒ある日本の5大商社は明らかに割安銘柄として際立っていたものの、これまで注目を浴びることはなかった。そこに妙味を見いだしたのが、米著名投資家のウォーレン・バフェット氏だ。

 バフェット氏は8月30日、90歳の誕生日に伊藤忠商事、丸紅、三菱商事、三井物産、住友商事の株式をそれぞれ5%取得したと明らかにした。複合企業(コングロマリット)である5社はいずれも、伝説のバリュー投資家であるバフェット氏のキャリアよりも長い歴史を持つ。

 日本の投資家やアナリストの間では、今回の動きはバフェット流投資の典型例だとの指摘が出ている。割安かつ配当が手厚く、一般に考えられているよりリスクが控えめの銘柄に照準を定める手法だ。

 バフェット氏は新型コロナウイルスのパンデミック以降、総じて沈黙を保っていた。大きな動きとしては、7月初旬に米エネルギー大手ドミニオン・エナジーの中流事業を債務を含め97億ドル(約1兆円)で買収したくらいだ。

 バフェット氏が率いる投資会社バークシャー・ハザウェイはコロナ流行を受けて、保有していた航空株を処分したほか、ゴールドマン・サックス、ウェルズ・ファーゴ、JPモルガン・チェースなど、金融株の大半も売却した。ただ、バンク・オブ・アメリカ(バンカメ)については、引き続き持ち株を積み増している。

 バークシャーは、4-6月期(第2四半期)末時点で1466億ドルの手元資金を保有しており、買収原資は潤沢だ。それでもバフェット氏は、望ましい案件がないと度々述べていた。米株はコロナ流行を受けた急落から持ち直し、主要株価指数は過去最高値をうかがう。

 そのためバフェット氏はなじみの薄い市場で新たな標的を物色してきた。バークシャーが保有する外国事業は、オランダの超硬工具メーカー、IMCインターナショナル・メタルワーキングなど、ごくわずかにとどまる。

 日本の5大商社の最大のリスクは、事業内容の詳細がよく分からない点だ。一般に商社と呼ばれるが、5社いずれも幅広い分野で事業や投資を手掛ける。

 三菱はコンビニエンス大手ローソンの過半数株を保有しているほか、ロシア・サハリン沖の石油・ガス田に投資。三菱自動車に2割出資しており、食品事業も手掛ける。

 JPモルガン・チェースのアナリスト吉川達也氏は、日本の商社は独特で、容易には理解されないと指摘。株価はこれまでディスカウント水準にあったが、バフェット氏の投資で今回注目を集めたことで、こうしたディスカウントは解消される可能性があると述べた。

 バフェット氏が食指を伸ばした背景には、5社のバリュエーションが極めて低いことがあるとアナリストらはみている。ゴールドマンによると、伊藤忠を除き、株価純資産倍率(PBR)はすべて先週末時点で0.75倍以下だ。つまり、バフェット氏は理論上、1ドルの純資産を得るのに0.75ドルをつぎ込めばよい計算になる。

 また株価に比べて5社の配当は高水準にある。住友商事は今期、1株当たり70円の配当を支払う計画で、これは8月31日終値の約5%に相当する。

 バフェット氏出資のニュースが追い風となり、8月31日の東京市場で5社は軒並み4.2~9.5%値上がりして終えた。バークシャーは取得額を明らかにしていないが、8月28日時点で各社の株式5%は計約60億ドル相当で、おおよその金額を知る目安になる。

 今回5社の株式を取得したのは、バークシャー傘下の損保会社の1つ、ナショナル・インデムニティー・カンパニーだ。バークシャー系列の保険会社は、将来の保険金支払いに充てるために確保しておく「フロート」と呼ばれる資金を使って、株式などに長期投資を行う。

 バークシャーは60億ドル相当の円債を保有しているほか、ドル円相場の変動リスクに対するエクスポージャーはわずかにとどまるとしており、周到に準備を進めてきたことがうかがえる。商社は配当を円建てで支払う。

 楽天証券のストラテジスト窪田真之氏は、海外投資家は人口動態などを理由に日本株の魅力は乏しいと考えるかもしれないが、健全な財務と安定した収益性を持ちながら、ここまで割安な銘柄を提供する市場は他にはないと指摘する。同氏は長年、バフェット氏の株主への書簡を分析してきたという。

 伊藤忠の岡藤正広最高経営責任者(CEO)は、世界指折りの投資家であるバフェット氏が出資先として白羽の矢を立てたことで「業界活性化の起爆剤になると確信している」と歓迎した。他の4社は詳細なコメントを行うことを控えた。

 商社と呼ばれながらも、5社はいずれも投資銀行やプライベート・エクイティ(PE)会社の事業形態に近い。欧米投資銀のアナリストは、各社とも米PE会社のような様相を強めていると話す。営業利益に重点を置いているほか、目立った成長が見込めなくても安定したキャッシュフローをもたらす、過小評価された消費者事業を選別しているためだ。

伊藤忠は7月、傘下のコンビニ大手ファミリーマートに対する出資比率を95%近くまで引き上げる方針を明らかにしている。

 また、日本の商社は他ならぬバークシャー自体に似てきたとの指摘もある。バークシャーは買収や株式取得を通じてエネルギー、資源、消費財など幅広い業界に出資している。

 日本の商社は年間数十億ドルを投じて世界各地で投資機会を模索している。前出の吉川氏によると、こうした目利き能力はバークシャーとの提携に生かされるかもしれないという。

 バフェット氏自身、日本の商社大手と共同でディールを手掛ける可能性に含みを持たせている。「将来的に相互に利益をもたらす機会が訪れると期待している」

以上、Wall Street Journalより要約・引用しました。
https://www.wsj.com/articles/warren-buffett-at-90-still-has-an-eye-for-a-bargain-11598881078?mod=searchresults&page=1&pos=1

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