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ゲームストップ暴騰は株価操作か? 米国証券取引委員会(SEC)の判断は?

 

個人投資家がSNS掲示板レディット上のフォーラム「WallStreetBets」上で、結束してゲームソフト小売り「ゲームストップ」株を買い上がり、暴騰させ、同社株のショートポジションをはっていた大手ヘッジファンドに多額の損失を発生させ、崩壊寸前まで追い込んだ。全米のプロの資産運用担当者はツイッターを呆然と眺めながら口をぽかんと空いたまま… 

今週の米国株式市場でゲームストップ株、AMCエンターテインメント株に起こったことの仕組みはシンプルだ。今まで起こらなかったのは、「ヘッジファンドの空売りポジションについての噂を共有し、ヘッジファンドに攻勢を仕掛けよう」という考えを持つ人々が結束するプラットフォームを持たなかったからだ。2019年にフィデリティー・インベストメンツやチャールズ・シュワプ等の証券会社が手数料を無料にしたことが大きな転機となり、個人投資家による売買が急増した。WallStreetBetsのユーザーも50万人をすぐに突破。その後、2020年3月の相場急落時に100万人、最近ゲームストップ急騰劇のさなかに200万人に達した。

SNS掲示板は資金力は小さいが考えを共有する個人投資家が徒党を組むことを可能にした。そして、個人投資家が集うSNS掲示板に触発されて、始まったうねりに軽い気持ちの個人投資家も加担し、渦はどんどん大きくなり、1月半ばにはたった20ドルであったゲームストップ株は1月27日に17倍の1,347ドルをつけた。この間、同社の企業業績を左右する材料は何も出ていない。会社のファンダメンタルズとは全く関係のない株価高騰だ。

ゲームはダウンロードが主流となり、店舗でゲームソフトウェアを販売する同社の業績見通しは悪い。ヘッジファンドは株価下落を見込んで株の空売りポジションをはっていた。同社株価の高騰はそんなヘッジファンドンドを締め上げた。

一部米ネット証券が、標的にされた株式について売買制限措置を発動。売り手じまい以外の売買を受け付けず、証拠金も引きあげるという措置。代表的ネット証券会長がテレビに生出演したが、個人投機家の逆鱗(げきりん)に触れ、炎上のごとき状況になった。「ゲームの途中でいきなりルールを変えるな」との声が上がる。

米証券取引委員会(SEC)も事態注視の声明を出したが、個人投機家集団の「共謀行為」を立証できるかがカギになる。ここでも個人投機家たちが反発を強める。

「個人投資家がソーシャルメディア上で互いにけしかけていたのであれば、これは事実上のクラウドソース型『パンプ・アンド・ダンプ(虚偽の情報を流して価格をつり上げたところで売り抜けて利益を手にする不正行為)』に相当する」。こう指摘するのは、法律事務所アーノルド・ポーター・ケイ・ショーラーのパートナー、ダニエル・ホーク氏だ。

個人投資家は「株価を操作しようとする明白な意図を隠そうともしていない」という。同氏は米証券取引委員会(SEC)市場乱用部門の元責任者だ。

証券を専門とする弁護士らは、SECが取引について調査するとみている。SECは27日夜、「オプションおよび株式市場のボラティリティー」を監視しており、「関連当局と連携して状況を精査する」との声明を出した。SEC報道官はこれ以上のコメントを控えた。

当局への情報提供者はここ数週間、レディットなどのサイトで行われているやり取りを調査し、不正行為に当たらないか判断するよう規制当局に求めていた。事情に詳しい関係筋が明らかにした。

ただ、規制当局はユーザーが匿名で参加できるレディットなどのサイト上で、誰が何を言ったのか、誰がどの株を売買しているのかなどを検証する必要があり、調査は時間がかかる見通しだ。証券専門の弁護士は、小口取引を増やしていったとみられる数百人の個人投資家を提訴することは、当局にとって現実的ではないと話している。だが、問題とされる取引を中心となってけしかけている複数の個人を特定し、訴えることは可能だとみられている。

市場操作は従来、規制当局にとって特に証明が難しいとされてきた。犯人が偽情報を流布し、株価をつり上げる意図があったことを示す必要があるためだ。ただ、ほぼ間違いなく株価を人為的につり上げた上で、無知な別の投資家に売り抜けるようなやり方で売買が成立していれば、その取引自体が誤解を与える行為だと判断される可能性もある。

典型的なパンプ・アンド・ダンプの手法は、売買高の少ない企業の株を買い上げ、その会社の先行きについてうわさや偽情報を流し、それにだまされた投資家に高値で売って利益を得るという仕組みだ。これを仕掛けた人物が持ち高を処分すれば、株価は通常、急落するため、高値でつかまされた投資家が損失を負うことになる。

投資銀行・金融助言会社メトセラ・アドバイザーズを率いるジョン・チャカス氏は「これは最悪とも言える市場操作だ」と指摘する。「人々は主にショートスクイーズによって理解しがたい水準までつり上げられた価格でゲームストップ株を売買しており、買い手は法外な値段を吹っかけられている」

だが、投資家の中には、レディットのウォールストリートベッツのようなフォーラムでのやり取りは株価操作には当たらず、これまでプロ投資家にしか手が届かなかった商機をつかもうとする個人投資家の懸命な努力を反映しているとして、擁護する声もある。レディットの広報担当者は、同社では違法取引を可能にするようなコンテンツは禁じているとし、「必要であれば、法執行当局の調査に協力する」と述べた。

レディットのフォーラム上では、2019年から個人投資家がゲームストップに関心を示し始めていた兆候がみられる。一部のユーザーは当時、強気なオプション取引のポジションをとらえたスクリーンショットを投稿。今後なぜ値上がりが期待できるか議論していた。ゲームストップは、ヘッジファンドが売り持ち高を膨らませていた銘柄だ。

ゲームストップ株はまるでパンプ・アンド・ダンプかのように急騰してきた。偽情報によって押し上げられた兆候はみられないが、実際に誰が売買し、レディットなどに誰がコメントを投稿していたのかを規制当局が正確に把握することでしか、それを確認することはできない。

レディットのウォールストリートベッツ上では、アマチュアのトレーダーが乱暴な言葉を使って取引について語り、市場を支配する大物投資家をたたきのめす「アンダードッグ」的な存在として自らを位置づけている。

インタラクティブ・ブローカーズの首席ストラテジスト、スティーブ・ソスニック氏は「これは旧時代のプロに対する新参者が収めた究極の勝利」だと指摘する。「だが旧時代のプロにとって腹立たしいのは、これら新参者がやっているような行為には関与できないことだ」米国のみならず、日本でもコロナ禍で自宅待機が増え、ネット証券口座を開設し投機的に株式市場に参加する個人が増えている。個人投資家はプロの投資家のように上場企業のファンダメンタルズを分析した上で株式投資をするのではなく、手近なSNSサイトで情報交換しファンダメンタルズとは関係のない判断基準で株式市場に参加することも多い。レディットやWallStreetBetsを規制する議論も出ているが、SNS掲示板を簡単に作ることができる現在は規制はどうしても後手に回る。同様のことがまた今後起こる可能性は高い。規制当局の今後の動きが注目される。

以上、Wall Street Journalより要約・引用しました。
https://www.wsj.com/articles/gamestop-surge-tests-scope-of-secs-manipulation-rules-11611838175?mod=searchresults_pos1&page=1

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