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低炭素めざす企業、オフセット市場の利用急増

 

民間排出量取引、CO2削減目標への貴重な手段に 「削減を優先すべき」との声も

温室効果ガスの排出量相殺を目的とした「カーボンオフセット」のビジネスは急速に広がっており、企業はこの目まぐるしい市場を利用している。

カーボンオフセットとは、大気中の温室効果ガスを除去するか、もしくは排出を回避することだ。一部の科学者の予測によると、壊滅的な気候変動を引き起こさないためにはこのプロセスを大規模に行う必要がある。

各企業は植林計画のほか、空中の二酸化炭素(CO2)を機械で吸い込むなどの幅広い活動に資金を提供しており、さまざまな市場を通じて環境を汚染する者とCO2を閉じ込める機会を結びつけている。それと引き換えに、企業は仲介者(非営利団体と営利企業を含む)から「クレジット」を取得する。クレジットは自社の排出量削減目標に加算される。

こうした自主的なカーボンオフセットの市場では昨年、約1億8100万クレジットが発行された。発行を手掛ける機関の一つ、ベリファイド・カーボン・スタンダード(VCS)は、非営利団体(NPO)ベラによって運営され、CO2排出量削減を認証する基準を定めている。市場参加者などで構成する団体「自主的なカーボンオフセット市場の拡大を目指すタスクフォース(TSVCM)」によると、2010年の3300万クレジットから大幅に増加した。1クレジットはCO2排出量1トン分に相当する。

TSVCMは、パリ協定に定められた削減目標(世界の気温上昇を産業革命前に比べて1.5度以内に抑える)を達成するには、オフセット業界が2030年までに現在の15倍に拡大する必要があると推定。その実現に向け、オフセットの認証や価格設定について透明性を高める必要があると、先週公表した報告書で指摘した。

「全てのカーボンクレジットが必ずしも平等に作られているわけではない。まさしくそれが問題だ」。TSVCMを支援する業界団体、国際金融協会(IIF)のサステナブル金融責任者ソニア・ギブス氏はこう話す。「トウモロコシやコーヒーの取引と同じく、市場の誰もが1バレルや1ブッシェルが何を意味するのか、中身の品質はどうかについて合意し、その基準を信頼する必要がある」

カーボンオフセットの新技術

TSVCMによると、2019年のカーボンオフセット・クレジットの平均価格は、CO2の1トン当たり3ドルだった。炭素削減量をいかに正確に測定し、監視できるか、どれだけ長く貯留できるかといった要因で価格は異なるとギブス氏は言う。

オフセットには大気中のCO2除去を目指すものと、CO2排出を防ぐことが目的のものがある。

「誰かにお金を払って大気中の炭素を除去することと、誰かにお金を払って炭素を排出しないことは同じではない」。そう話すのはマイクロソフトのルーカス・ジョッパ最高環境責任者だ。「だが現在は全く同じものとして説明されている」

マイクロソフトは主要なオフセットの購入者だ。2021年6月までの1年間の活動報告書によると、同社は15のプロジェクトに資金を提供。これらのプロジェクトは終了までに合計131万トン以上の炭素を除去するという。

マイクロソフトは2030年までに、同社の排出量を上回るCO2を大気中から除去することを目指す。同社の広報担当者はオフセットへの支出額については発言を控えた。

自然を利用したオフセットは、植物の寿命や生育状況によって炭素吸収の面でさまざまな違いが見られる。マイクロソフトによると、同社が昨年支援した森林プロジェクトは、13年~100年のあいだ炭素を貯留できるという。マングローブ湿地や海草などの水界生態系は、さらに炭素貯留に優れていると科学者たちは話す。

こうしたオフセットは通常、樹木などの植物を育てるが、全く新しい技術も人気を集めている。米取引所運営ナスダックが今年過半出資した排出量取引市場のピューロ・アース(Puro.earth)が販売するオフセットは、木材を「バイオ炭」に変え、土壌中の炭素を回収するものだ。マイクロソフトは昨年、3件のバイオ炭プロジェクトに資金を提供し、これらは最長で800年間、炭素を貯留できると述べた。

一方、機械を使って炭素を貯留する「直接空気回収(DAC)」と呼ばれる技術もある。スイスの炭素回収スタートアップ企業、クライムワークスが進めるプロジェクトは、地熱エネルギーを利用して空中のCO2を除去し、アイスランドの地下に貯留するものだ。昨年マイクロソフトが支援を決め、1400トンの炭素を1万年間貯留する契約を結んだ。

もう一つの新技術は、生物学的エネルギーを利用して産業プロセスで発生するCO2を回収する方法だ。マイクロソフトは、チャーム・インダストリアルが運営するオクラホマ州のプロジェクトに資金提供した。バイオ(生物学的)廃棄物を「バイオ油」に変換することで排出されたCO2を回収し、地下に1万年貯留できるという。

マイクロソフトによると、今のところ、新技術による長期的解決策を通じた炭素貯留コストは、自然を利用する方法の約50倍だという。

依存しすぎに懸念

各企業はどのオフセットを購入するかだけでなく、自社の気候変動目標を達成するためにどの程度オフセットに依存するかを検討中だ。

製鉄やセメントといった炭素集約型産業がオフセットを利用せずに「実質的な排出量ゼロ」を達成できないことは、多くの専門家も同意している。だが、オフセットがあるからといって排出量削減の取り組みを免れるわけではないと彼らは警告する。

「人々があまりにも(オフセットに)頼っていることが非常に心配だ」。IBM社長を退任するジム・ホワイトハースト氏はそう語った。

同氏は、企業や国が排出量削減を優先しなければ、いくらオフセットがあったとしても気候変動を抑えるには十分ではないと述べた。米航空宇宙局(NASA)の森林専門家は2019年に、森林再生計画をたとえ野心的に見積もっても、植林によって人間活動が排出するCO2を全て吸収することにはならないと述べた。

ユナイテッド航空で持続可能性担当責任者を務めるローレン・ライリー氏は、バイオ燃料や電動、または水素燃料で飛ぶ航空機など、低炭素輸送を可能にする技術への投資をオフセットよりも優先させる方針だと述べた。

ただ、ライリー氏もホワイトハースト氏も一定の懸念は示すものの、オフセットの利用を否定しているわけではない。ユナイテッド航空はオフセットを購入しており、IBMは2030年までに再生可能エネルギー電源で電力の90%を賄う計画だ。

カーボンオフセットは「価値ある役割を果たせるだろう」とホワイトハースト氏は言う。「問題は、そこに主要な役割を与えてしまうと、目標達成が不可能になることだ」

以上、Wall Street Journalより要約・引用しました。
https://www.wsj.com/articles/carbon-offsets-are-taking-off-but-they-arent-all-created-equal-11626256800?mod=searchresults_pos1&page=1

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