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ダイバーシティは成長に不可欠

 

日本の女性活躍:数は増えたが質はまだまだ

ウォール・ストリート・ジャーナルに既存の価値観にとらわれずに社会を変えようとしている各界のリーダーへのインタビュー記事があります。
女性活躍による経済活性化を目指す「ウーマノミクス」の提唱者であるゴールドマン・サックス証券のキャシー・松井副会長のインタービュー記事を要約してご紹介します。

キャシー・松井氏略歴

1965年米国生まれ。ハーバード大学卒業、ジョンズ・ホプキンズ大学大学院修了。90年バークレイズ証券、94年ゴールドマン・サックス証券入社。99年に「ウーマノミクス」を発表し、日本政府が打ち出した「女性活躍」の裏付けになる。『インスティテューショナル・インベスター』誌日本株式投資戦略部門アナリストランキングで1位を獲得。2015年から現職。チーフ日本株ストラテジストとして活躍する一方、アジア女子大学の理事会メンバーも務める。1男1女の母。

質問:ウーマノミクスを提唱してから20年余り経ったが、女性活躍の現状をどう見ているか

回答:初めてウーマノミクスのレポートを発表した21年前と比べると、日本女性の就業率は56%から直近では72%まで大きく改善した。米国の66%、欧州の63%を大きく上回っている。コロナ禍の前だが、2013年以降、新規女性雇用者は330万人増え、先進国の中でもトップランクとなった。

2つ目は透明性だ。女性活躍推進法案に基づき、300人以上の組織はダイバーシティ関連の情報開示が義務付けられた。データの質がさまざまで完璧とは言えないが、情報開示の義務は評価すべきだ。

3つ目は先進国でもトップクラスの育児休業制度。父親と母親がそれぞれ1年取得でき、給与水準の6割、実質8割が支給される。米国では全国レベルでそのような制度はない。育児休暇を取得する男性はまだ少ないようだが、充実した制度があるのは大きい。

一方、働く女性の数は増えているものの質はそこまで上がっていない。リーダーシップ層、つまり決定権を持っている女性の割合がまだまだ国際的に低い水準にとどまり、女性管理職の割合は2018年で約13%と欧米の半分以下だ。取締役の比率も約5%とまだまだ低い。そして国会を見れば衆議院の女性議員の割合は10%とサウジアラビアやリビアより低い。(2020年までに社会の指導的地位に占める女性の割合を30%程度にするとした政府目標の)「2030」はどこにいってしまったのか?

ではどうすべきなのか。政府の取り組みでやるべきこともあるが、私がよく経営者から聞くのが、ダイバーシティの重要性や女性の活躍が不可欠であることは理解しているものの、自分の会社では優秀な女性が長続きしない、または昇進を拒否して、なかなかマネジメント層に上げられないとの悩みだ。

一方女性自身は、自分の会社は働きにくく、愛着もわかないと。面白い機会もなく、男女間のペイギャップも埋まらない。それなら家族の面倒を見たほうがハッピーだとして職から離れてしまう。

質問:多くの会社はいまだに「やらなくてはいけない感」で女性活躍の推進をしているのでは

回答:やらないといけないとの外圧を感じているところもある。ただ、現実問題として日本にとって一番のチャレンジは人手不足。労働人口が2055年までに4割減ってしまうという事実だ。すべてロボットや機械で補えれば良いが、そうもいかない。一番の資源が人材である限り、会社としては最も優秀な人材を確保するために環境や企業文化を変える必要がある。優秀な人材は、どのようなバックグラウンドや考え方を持っていても、自分の能力を最大限に活かせない場所で働きたいとは思わない。

結局、会社を成長させたいのか、それとも沈んでもいいのかだ。前者であれば、突き詰めていけば人だ。成長を促すイノベーションやアイデアや商品開発は人が優秀でないと無理。

質問:ウーマノミクスに懐疑的な経営者らをどう説得するのか

回答:教育や家庭環境などの結果として、私が「無意識バイアス」と呼ぶものを持っている人を説得するにはデータだ。データを使わないとなかなか通じない。例えば上場企業では、女性管理職の割合が高ければ高いほど増収率もROEも高いという結果が出た。これは海外でも全く同じ結果が出ている。それを利用して「こういう結果ですよ」と言うと会話が進む。GDPが15%上がる余地があると言うと、「え、そうですか?」と注目される。

しかし管理職が女性だけでもダメだ。それはダイバーシティに欠けているからだ。つまり、女性が男性より賢いからとか、よく働くからこういう結果なのではなく、違う視点や立場からのインプットが、より良いイノベーションやアイデアを生む。だからダイバーシティが大切なのだと。

やっと政府がダイバーシティを人権や平等の分野からストレートにビジネスおよび経済成長に不可欠だと位置付けてくれたおかげで、今では多くの人が関心を持ち、メインストリームのイシューになりつつある。

経済が右肩上がりであれば必要はないかもしれないが、横ばいまたはマイナスに向かっているのであれば、従来のやり方とは違うものが必要だ。同じ学校の出身、同じ趣味、そして同じ本を読むような人たちだとなかなか異なるアイデアは出てこない。そういう意味でダイバーシティは価値がある。

質問:では女性人材をどう育てれば会社に残ってもらえるのか

回答:外資系・国内企業を問わず、組織とのつながりが大切だ。仕事に投入する時間やエネルギーに見合うものが得られないとそこで働き続けたいとは思わない。それは昇給や昇進だけでなく、仕事に対するやりがいだ。自分を成長させる機会がなく仕事がつまらないと感じると、出産や育児などさまざまなライフイベントがある女性は会社を辞めてしまいがちになる。

それを防ぎ、経営者として優秀な人材をつなぎとめ、次世代のリーダーにするためにはなるべく多くのケアとサポートを与えるべきだ。例えばメンターだけでなく「スポンサー」をつけることだ。女性は男性より自己宣伝が下手だが、その業績が社内の幹部に知られていなければ、業績がないことと同じだ。そこで自分より上の管理職などがスポンサーとして業績をアピールしてくれれば、女性は自分のために時間を費やしてくれていると分かり、自分は会社に愛されている、必要とされていると感じる。このようにしてコミットメントを肌で感じてもらうことは人材をつなぎとめるには有効だ。

質問:そのような制度を設けている会社はまだまだ少ないのでは

回答:講演会などでゴールドマン・サックスの取り組みについて話すと、「私の会社には何もない」と驚く参加者もいる。ではどうしたら社内の意識を高められるのか。1人の女性が社長に報告するのは大変なので、できるだけグループで、そして男性にも参加してもらって、一緒に解決策を考えるほうが良い。経営陣にとって問題を聞くのは面倒だが、セットで解決策を提案してもらえれば協力的になるはずで、これは建設的な方法。小さい成功を重ねていくことが大切だ。これはスプリント(短距離走)ではなくマラソンで数年はかかること。弊社が行っている無意識バイアスを修正するトレーニングも時間がかかる。お互いの価値観を合わせるのは、1日や1週間、1年では変わらない。

質問:女性の「ロールモデル」の少なさについて

日本はOECD加盟国の中で研究職に占める女性の割合が最も低い。高校ぐらいまで、男女の学生の理数科のスコアほとんど変わらないのに、なぜか大学進学時にSTEM(科学・技術・工学・数学)分野を選ばない。それは女性のロールモデルの存在に関係しているのかもしれない。You can’t be what you can’t see(見たことがないものにはなれない)のは当たり前だ。STEM分野で活躍している女性はいる。例えば宇宙飛行士の山崎直子さんや新薬の開発に成功した久能祐子さんのワクワクする話を学校やメディアを通じて聞く機会があれば全く違うと思う。

質問:女性活躍の今後の見通しは

回答:今の若い世代は価値観が全然違う。若い男性もワークライフバランスを重視している。やっと日本が変わるかもしれないとの希望につながる。

もうひとつの希望はESG。コロナ禍の中で最も資産が流れてきたのがESG関連商品。資本主義2.0とも言われるが、企業は今後は株主の利益だけを追求するのではなく、従業員も含めもっと幅広いステークホルダーのことを考えているのか厳しく問われることになる。ダイバーシティはESGのSociety(社会的責任)とGovernance(企業統治)に関連している。例えばゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントは、女性が1人もいない取締役会を支持する指名委員会には反対票を投じる方針を掲げており、そういう流れはこれからも続くと思う。

質問:ご両親は日本出身だが、生まれも育ちも米国の松井さんがなぜ30年以上にもわたり日本にいるのか

回答:学生時代に来日し都市銀行でインターンをした。制服での勤務など、その印象は良くなかった。また、本来は米国の外交官に就くことを希望していた。結果的にいは外交官の道を選ばず日本に来たが、今は政府の審議会などのメンバーとして政策提言ができている。自分の子供のため、明るい日本のため、少しでも貢献したいと思っている。

以上、Wall Street Journalより要約・引用しました。
https://jp.wsj.com/articles/SB10534406763591934111004586553800731951090

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