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中国の減らない黒字、貿易戦争リスクも消えず

 

中国は「過少消費、過剰貯蓄」であることが根本理由

今日は国際マクロ経済の話をしたい。

 トランプ米大統領は中国との貿易戦争で、少なくとも目標の1つは達成しつつある。米国の対中貿易赤字は過去1年で、2012年以来の低水準に縮小した。

 ただ残念ながら、赤字の減少は、中国の対米輸入が増えたからではなく、米国の対中輸入が減ったことが要因だ。中国の輸入低迷は、中国が米国だけでなく、世界各国との間で貿易黒字を抱えているという根本的な理由によって起きている。つまり中国は「過少消費、過剰貯蓄」なのだ。過少消費、過剰貯蓄の経済は、不動産バブルを招き、不動産を持つもの、持たざる者の間の格差を加速させる。

 中国が抱える全体の黒字が、対国内総生産(GDP)比で過去10年に著しく縮小したことは確かだ。しかしながら、GDP自体が巨大化しており、とりわけ製造品の黒字は依然として相当な水準に高止まりしている。中国のGDPに占める消費の割合は4割にも満たず、主要経済国の中では極めて低い水準だ。こうした不均衡が解消されない限り、トランプ氏が再選を果たせなくても、貿易摩擦が消えることはないだろう。

 世界の貿易不均衡が招く事態をテーマにしている書籍がある。タイトルは「貿易戦争は階級闘争:格差拡大が世界経済をゆがめ世界平和を脅かす(仮題)」。著者は、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の姉妹刊行物、バロンズの経済コメンテーターを務めるマシュー・クライン氏、および北京大学光華管理学院で教鞭を執るエコノミスト、マイケル・ペティス氏だ。

 クライン、ペティス両氏は、中国、そしてドイツの成長モデルがもたらした世界的な貯蓄不均衡を示すことで、かねて存在していた問題に新たな視点を提供した。このモデルでは、一般労働者の賃金と消費を構造的に抑制することで貯蓄を確保し、新たな産業や外国への投資に回すことが可能になる。「高水準の貯蓄モデルは、一般市民に消費の抑制を迫り、政府や企業のエリート層が一段と消費できる構図になっている」

 両氏によると、多くの国がこうした道のりを歩んでおり、中国はその1つにすぎない。産業革命の時代、英国の実業家の富と貯蓄は、農地から都市部に送り込まれた安い労働力によって肥大化した。南北戦争前の米国では、奴隷所有者が奴隷を使って主要な輸出品であった綿花を栽培し、利益を搾取していた。1920~30年代の旧ソ連では、強制労働や農業の集産化を通じて得た穀物や鉱物を輸出し、それと引き換えに機械を手に入れていた。

 中国は韓国や日本に追随するように、人々の貯蓄を教育や公共インフラ、輸出型産業など高リターンの投資へと回すことで、高度成長を実現した。また、通貨安政策に加え、預金者にほぼ何ら利息を支払わないことで、借り手の工業系企業を助成する金融システムも高成長を支えた。クライン、ペティス両氏は中国経済の特色の多くはなお、労働者や消費者を不当に扱っていると指摘する。具体的には、抗議を行う労組は違法であり、労働や消費に対する税は高水準で、大勢の出稼ぎ労働者は居住許可がないため福祉を受けられない。

 定義上、一方の国が黒字であれば、相手国は同じ額だけ赤字になる。そのため、中国やドイツの貿易黒字は必然的に米国(および英国など他の低貯蓄国)にとっての赤字になる。貿易赤字は必ずしも雇用を減らすわけではないが、その構成に変化をもたらす。2000年代には、中国からの輸入品が米国で数百万人の雇用を奪う一方、ITなど新たな産業への雇用シフトを促した。中国の高水準の貯蓄が住宅バブルを招いた。クライン、ペティス両氏は、そうした意味において、中国の格差が米国の格差に寄与していると論じる。

 両氏は「米国の金融システムと消費市場は、他国で行われている搾取に対する安全弁として機能している」と指摘。「他国の政策が変わらない限り、米国単独で格差解消や生活水準の改善、経常赤字の安定化または縮小を実現することはできない」としている。

 中国は、トランプ氏との「第1段階」貿易合意と黒字縮小が保護主義を後退させると望んでいたかもしれない。中国は何年も、消費型経済への移行を約束してきた。偶然にも、1-3月期(第1四半期)の経常収支(財・サービスの貿易、投資収益含む)は、新型コロナウイルスによる輸出低迷で赤字転落した。

 だが、事態は悪い方向へと向かっている。ピーターソン国際経済研究所のチャド・バウン氏によると、5月末までの中国による米国産品の輸入は、約束した水準の半分のペースにとどまっている。これまで財の貿易赤字を一部相殺してきた中国人観光客の海外での支出も、パンデミックによって急減した。中国の製造業は小売業を上回るペースで回復しており、近く黒字に再び転換する可能性を示唆している。しかしながら、需要は各地で低迷しており、世界が中国の余剰生産を吸収する状況には全くない。こうした状況は、保護主義や通貨切り下げによって市場シェアの世界的な奪い合いを引き起こす要因となる。

 米国では、民主・共和両党で反中感情が高まっている。背景にあるのは、中国が新型コロナの大流行を招いたとの疑惑に加え、先端テクノロジー分野で覇権を握るという中国の野望や戦略地政学上の「いじめ」、香港を含む反体制派への締め付け強化といったことがある。与野党の上院議員は、外国人投資家による米国株・債券投資への課税、ドル押し下げに向けた為替市場への介入、中国が保有する米国債の償還拒否までも提案し、世界の不均衡是正を目指している。アメリカ国内では干渉主義への抵抗が薄まり、同国が掲げてきた自由貿易への執着は薄まりつつある。

 中国は長らく、経済モデルを消費者寄りにすることで、貿易摩擦を抑えようとしてきた。だが、こうした取り組みが成功しているとは言えない。

以上、Wall Street Journalより要約・引用しました。
https://www.wsj.com/articles/as-chinese-trade-surpluses-persist-so-will-risk-of-trade-wars-11594223892?mod=searchresults&page=1&pos=1

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