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「脱炭素」エネルギー投資の潮流、石油大手に圧力

 

欧州社債市場は気候変動リスクをすでに反映

オランダの裁判所が英蘭系石油大手ロイヤル・ダッチ・シェルに二酸化炭素(CO2)排出量の削減を命じる判断を下したことで、石油各社の気候変動リスク対策を投資家がどう評価するかに注目が高まっている。

特にシェルなど石油大手が発行する社債市場では、将来の変更に備え先手を打とうとする投資家が、持ち高の調整に腐心しているようだ。

投資家が考慮すべき事項に気候変動も加わるという流れは、投資の世界を揺るがしている。オランダの裁判所は5月26日、シェルが2030年までにCO2排出量を45%削減するよう命じ、脱炭素化を加速させるよう圧力をかけた。シェルは控訴する方針を明らかにしている。

同じ日、米石油大手エクソンモービルの株主は、ポスト化石燃料時代への備えを求める物言う株主(アクティビスト)に推薦された候補者を取締役に選定した。
こうした動向は、化石燃料企業の投資評価で新たな潮流を生みつつある力を反映している。

変化の兆しが最も顕著なのが欧州の石油企業だ。原油高にもかかわらず、これらの企業の社債は弱含みとなっている。背景には、シェルやエクソンなどに環境対策の強化を迫るアクティビストらの存在に加え、欧州中央銀行(ECB)やイングランド銀行(英中央銀行)など主要中銀が債券買い入れ策で持続可能な企業を優遇するのではとの投資家の思惑がある。

UBSのグローバル信用ストラテジスト、スティーブン・カプリオ氏は「景気回復が進み、コモディティー(商品)価格も上昇基調にあるという文脈からすると、エネルギー企業のスプレッドに何らかの足かせがあるのは明らかだ」と話す。

原油価格の国際指標である北海ブレントは年初来、30%余り値上がり。一方で、欧州石油大手が発行する社債のスプレッド(米国債利回りに対する上乗せ幅)は拡大基調にあり、投資家が他の資産よりもリスクが高いとみていることを反映している。

こうした動きは異例だ。エネルギー企業の社債スプレッドは通常、原油高なら縮小、原油安なら拡大する傾向にある。原油価格が上昇すれば、社債を発行する石油企業に資金が一段と流入し、発行体としての信用度が高まるはずだ。

エネルギー企業発行のユーロ建て債券に関する指数は、5月26日時点でスプレッドが1.03ポイント。これに対し、非金融企業が発行するユーロ建て社債全般に関する指数のスプレッドは0.82ポイントだ。UBSの分析によると、両スプレッドの格差は年初以降、倍以上に開いている。

英BPや仏トタルなど石油大手が発行した社債の利回りは今年、同年限の非エネルギー企業の社債利回りを上回るペースで上昇している。シェル債(2031年償還)の利回りは26日時点で0.56%と、昨年末時点の0.22%から大きく上昇。同年限のトタル、BP社債も似たような動きだ。

しかも、これらの企業は、2050年までに炭素排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」などの削減目標を掲げているにもかかわらずだ。
足元の動向について、中銀が債券市場に及ぼす突出した影響力を指摘する声もある。

クリスティーヌ・ラガルド総裁をはじめECB当局者は、年内公表予定の金融政策見直しの一環として、ECBが炭素排出量の削減で経済に果たす役割について評価していると明らかにしている。また現在は市場全体で均等な購入を目指している社債買い入れプログラムについても、気候変動リスクを考慮すべきか検討中だ。

英中銀も社債買い入れについて、発行体の気候への影響を勘案する計画を示している。英政府は3月、物価安定にとどまらず、炭素排出実質ゼロへと経済を導くことも責務に加えるよう、中銀に指示した。

「ほぼ全世界の中銀が気候変動を優先課題に掲げ始めている」。こう指摘するのはリーガル・アンド・ジェネラル・インベストメント・マネジメントのソーニャ・ロード最高投資責任者(CIO)だ。同氏は資産の値付けに関して、企業の脱炭素に向けた取り組みの度合いが反映されるようになると予想している。「対策を講じている企業とそうでない企業との間で、資産の値付けや資金調達コストで大きな違いが出てくるだろう」

年金基金や保険会社も投資先を決める際、企業の環境対策を重視するファンドに資金を投じる姿勢を強めている。モーニングスターによると、ESG(環境・社会・企業統治)基準に沿っているとするファンドへの資金流入は1-3月期に1850億ドル(約20兆3100億円)と、前四半期から17%増え、過去最高に達した。

ミューズニッチのクレジットポートフォリオマネジャー、タチアナ・グレイル・カストロ氏は、炭素の排出について「私は喫煙になぞらえることが多い。一世代前は完全に受け入れられていたのに、急に容認されなくなった」と話す。「たばこ会社の社債を購入できる資産運用会社は少ない」とし、大量の炭素排出からの脱却を検証可能な形で示せない企業に対しても、同じことが起こるようになると話す。

以上、Wall Street Journalより要約・引用しました。
https://www.wsj.com/articles/shell-exxon-decisions-highlight-rethink-in-energy-investment-11622109522?mod=searchresults_pos1&page=1

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