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ITビッグ5の今後10年予想 - 社会への革命的影響と規制強化

 

過去10年間に、IT(情報技術)大手5社は、それぞれ5つの偉大なテクノロジー帝国へと変貌を遂げた。

 株式市場はこのグループ - アップル、マイクロソフト、アマゾン・ドット・コム、グーグル親会社のアルファベット、フェイスブック――に4兆ドル(約438兆円)以上の価値をつけている。フォーブスによると、このうち4社の経営に関わった存命中の男性6人は合計約4500億ドル相当の資産をもつ。時価総額も資産額も2009年12月以降の10年間で5倍に膨れ上がった。

 これほどの富の蓄積は、恐らくスタンダード・オイル以来、他に類を見ない。そしてこれらの企業が社会に及ぼす影響は同じくらい革命的だと思われる。

 第一に、世界中の人のポケットに詰め込まれた何十億台ものスマートフォンだ。われわれは日常生活の多くの部分を、この超小型スーパーコンピューターにアウトソースしている。衛星利用測位システム(GPS)用チップ、第4世代(4G)高速通信ネットワーク接続、高性能カメラを搭載したスマホは、もはや人間の付属器官、あるいは第3の大脳半球といえるほどだ。

 10代の若者の間にありとあらゆるものが広まる中、ソーシャルメディア(SNS)やインターネット検索、オンラインショッピングはもう古い話になっている。だがモバイル革命は緒に就いたばかりだ。われわれの携帯デバイスは日々パワーを増している。「ギグ・エコノミー」の誕生がその好例だ。ライドシェアや民泊、フードデリバリーといった人気のサービスは10年前にはほぼ存在しなかった。今や数百万人がそれを仕事にしている。

 5社のITスーパースターが輝き始めると、それらは触れたものをほぼ何もかも変化させた。膨大なデータを吸い上げ、一流エンジニアを大量採用し、ライバル企業を片端から買収した。広範な権力を握ることで、自社が拡大し続けるだけでなく、テクノロジーの世界を再構築し、再定義した。

 人工知能(AI)を例に挙げよう。AIを支える理論は数十年前にさかのぼるが、機械学習の商業利用を可能にするためには、大量のデータセット――巨大IT企業が主に管理している資産―を収集し、コンピューターが独力で考えられるように訓練することや、それと並行して高速処理が可能な半導体を開発することが必要だった。フェイスブックとグーグルは、自身が保有する膨大な写真・動画ライブラリーの助けを借り、人間や物体の画像を識別できるシステムを作った。

 一方、アマゾンの音声アシスタント「アレクサ」は、音声でクエリを入力するたびに学習する。そして次の10年が終わる頃、グーグルは高速化された次世代(5G)ネットワークで動く最先端の自動運転技術で自動車・トラック業界に革命を起こしているだろう。

 ただ、巨大IT企業が大きな成功を収めるのに従い、コンピューター技術と市場の双方で影響力が集中し、犠牲も伴うことになった。2010年代が終わる今、こうしたプラットフォームへの依存がさまざまな反動を招いている。プライバシーやスクリーン中毒、ユーザーを誤った方向に導くソフトウエア・アルゴリズム、偽情報の拡散やハッカー集団による政治干渉といった問題などだ。批判的な勢力は反トラスト当局による巨大IT企業の解体、あるいは少なくとも規制の厳格化を求めている。

 IT企業に対する一般市民の認識の転換点となったのが、2016年に行われた欧州連合(EU)離脱の是非を問う英国民投票と米大統領選の後であると、ワシントン大学のマーガレット・オマラ教授(歴史学)は指摘する。米当局はロシアがSNSに宣伝工作を目的とする投稿を行い、米大統領選に干渉したと判断した。英国民投票でもロシアは同様の役割を果たしたと非難されている。

 「これらの企業は自らの創造物をきちんと管理しているという期待感があった」とオマラ教授は言う。「いまやそれはフランケンシュタイン博士が作った怪物のようだ」。ユーチューブやアマゾンはあまりに長い間、自分たちのプラットフォームを野放しのまま成長させたため、もはや監視するのは難しい。

 米国人のIT企業に対する心理はここ数年、著しい変化を見せた。ピュー・リサーチ・センターの2019年7月の調査によると、米国の成人は自国にプラスの影響を与えるものとしてIT企業を教会・宗教団体に次ぐ2位に挙げた。ただ、今年1月そう回答した人の比率は50%にとどまり、2015年の71%から低下した。一方、IT企業がマイナスの影響を与えると答えた比率は17%から33%に上昇した。

 中でも大きな懸念を引き起こしたのが、フェイスブックを利用して偽情報や陰謀説が拡散され、集団虐殺が推奨され、ニュージーランドの銃乱射事件がライブ中継されたことだ。

 ユーチューブも同様の批判にさらされている。同社は「視聴時間」を最大化するアルゴリズムを構築したが、その結果、筋の通らない陰謀論に大量の視聴者が引きつけられる事態となった。人気ユーチューバー「ピューディパイ」ことフェリックス・シェルベリ氏は、2016年終盤から17年初めにナチスの画像と反ユダヤ的内容を繰り返し投稿した。当時のチャンネル登録者数は5000万人を超えていた。同氏は有力ネオナチ団体のウェブサイトで称賛された。だが同氏はこの時、投稿内容は「ジョーク」だったと釈明した。

 大勢の契約社員がこれらの企業に雇われ、毎分アップロードされる暴力的・性的といった大量の禁止コンテンツを見逃すまいと奮闘を続けてきた。

 同時に、われわれの見る物と見ない物をこれらの企業が選別するという権限そのものも批判の的になっている。

 「たった数社のIT企業が世界の発言基準を決めるべきではない」。テクノロジーの社会への影響を研究するノースカロライナ大学のゼイネップ・トゥフェクチ教授はこう話す。同教授は、その規模の大きさを考えると「事実上の主権機関」だとし、フェイスブックやアルファベットでは、意思決定が最終的に創業者に委ねられている。フェイスブックではマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)が議決権の過半を握ることで自らの帝国を支配しており、アルファベットも共同創業者のラリー・ペイジ、サーゲイ・ブリン両氏が、経営の一線を最近退いたとはいえ同様の状況である。

 フェイスブックが成長するにつれ、ユーザー情報をどのように扱うかという疑問に直面した。米規制当局からは今年、ユーザーに無断で個人データを第三者と共有しないと約束した2012年の同意判決に違反した疑いで、50億ドルの罰金を科された。プライバシー保護に違反した疑いがたびたび浮上し、フェイスブックへの不信感は深まったが、過去最高値付近で推移する株価をみる限り、ビジネスに大きな影響は出ていない。

 アマゾンの優位性は同社が構築した大規模な物流ネットワークにある。おかげで非常に多くの商品を2日以内に全米各地に配送することが可能だ。コンシューマー・インテリジェンス・リサーチ・パートナーズによると、今や推定1億人以上の米国人が有料会員サービス「プライム」に加入している。これは米国の全世帯の半数以上に相当するという。

 また、アマゾンは過去10年余り自社の事業を支えてきたコンピューティング・インフラを、圧倒的破壊力を持つ新ビジネスに転換した。他社の業務システムにクラウドサービスを提供するアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)だ。AWSの今年の売上高は350億ドルとなる見通し。独立部門として初の売上高を報告した2012年の20倍に増えた。AWSはアマゾンの事業の中でも利益率が最も高い。

 マイクロソフトとグーグルも独自のクラウドサービスでこれに肩を並べようとする。この3社は巨大なコンピューティング・インフラを持っており、他社が参入するのは難しい。これは、企業の勢いをつけるフライホイール(弾み車)を回転させるには、規模が重要だというもう1つの例だ。アマゾンもやはり、同社のプラットフォームに悪質な業者が紛れ込むのを許していると批判を浴びている。同社はこれまでサードパーティー販売業者の取り締まりには消極的な態度だった。その一部は危険あるいは有害な商品を販売しており、多くはアマゾンが勧誘した中国の業者だ。また、迅速な商品配送を競い合う中で、サードパーティー販売業者と手を組む物流業者が安全度外視のスピードで走行しているとの批判もある。いずれのケースもアマゾンは自社には法的責任がないと主張している。

 それこそが、巨大IT企業が今後10年間に直面する大きな脅威となる。こうした企業は今までほとんど制約を受けずに成長してきた。あまり知られていないが強力な法律(「通信品位法230条」)があり、ヘイトスピーチやサードパーティーによる危険な商品の販売といった、プラットフォーム上に投稿・掲載されるコンテンツについては原則として企業の責任を問わないとしているからだ。しかし今後「テックラッシュ」と呼ばれる巨大IT企業への反発が広がり、政治家がこのルールを書き換える日が来れば、我々の知っているインターネットの世界が大きく変わる可能性がある。

以上、Wall Street Journalより要約・引用しました。https://www.wsj.com/articles/the-imperial-powers-of-the-tech-universe-11576630805?mod=searchresults&page=1&pos=1

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