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シリコンバレーの新たな現実、ウィーワーク、ウーバー企業価値計10兆円消滅の波紋

 

シェアオフィス大手のウィーワークや配車大手ウーバー・テクノロジーズといった、一時天高く舞い上がったシリコンバレーの人気者たちが、今年に入って計約1000億ドル(約10兆9000億円)の企業価値を失った。これを受け、ベンチャーキャピタル(VC)の投資家は一段と慎重になり、新興企業の一部は成長より収益性を強調するようになった。

11月の数週間に見られる動きとしては、自動車定額使用サービスのFairや、ロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)を手がけるUiPathが人員削減に踏み切った。電動キックボードのシェアサービスを提供するLimeは黒字化が可能なことを投資家に証明するため、業務見直しを進めている。

「われわれは5年前から続く陽気なパーティーのさなかにいたが、誰かが突然、照明スイッチを入れた」とVCアホイ・キャピタルのダボス氏は話す。「いまは全員が目を慣らしているところで、残りの時間をどう過ごすのか誰も見当がつかない。それがシリコンバレーの今の気分だ」

新興企業全体については依然、金融市場に現金が有り余り、金利も歴史的低水準にあることから、未公開株市場がこれ以上急激に落ち込むことはなさそうだと投資家はみる。それでも大規模な価値崩壊によってVC業界には近年なかった不透明感が漂う。投資家は反省し、企業統治(コーポレートガバナンス)の厳格化を求めている。

起業家やVC投資家、新興企業向けアドバイザーの話によると、資金調達に要する時間は長期化している。消費者向け技術企業の資金調達は6カ月前なら1~2週間で終了したが、いまは1カ月以上かかるとVC投資家は話す。8000万~1億ドルの資金調達を計画していた新興企業が2000万~3000万ドル程度しか期待できないと投資家から告げられることも多くなっている。

ウィーワークの失墜はとりわけ衝撃的だ。親会社ウィーカンパニーによる新規株式公開(IPO)申請により、巨額損失の詳細やずさんな企業統治、さまざまな利益相反が明るみに出た。先月、大株主のソフトバンクグループが救済を決定した頃には企業価値評価額は約80億ドルになっていた。直近の資金調達ラウンドで470億ドルと評価されていたのと大違いだ。

ウーバーの時価総額は、5月のIPO実施時点の評価額を約320億ドル下回っている。同業リフトも3月のIPO実施以降、時価総額が約100億ドル減少した。かつて未公開株市場でウィーワークに次ぐ2番目に高い評価額がついていた電子たばこ大手ジュール・ラブズは今月、約16%の人員削減を発表した。電子たばこへの規制強化を受け、最も人気の高い商品の国内販売を中止した後、ジュールの筆頭株主は同社の評価額を140億ドル引き下げた。

ウィーワークが資金調達市場に与えた影響は重大で、ここ2カ月でVCに出資するリミテッドパートナーと呼ばれる投資家の一部が自分たちの資金を取り戻せるのかという懸念を改めて表明するようになった。資産運用とIPO調査を手がけるルネサンス・キャピタルによると、米国のIPO件数――リミテッドパートナーが支払金を受け取る機会の1つ――は今年4-6月期から7-9月期に3割以上減少した。データ会社ピッチブックによると、いわゆる「ユニコーン」(企業価値10億ドル以上の未上場の新興企業)が今年7-9月期に行った資金調達ラウンドの数やそこでの平均調達額は、2018年4-6月以来の低水準だった。

投資家がこれらの企業により厳格な監視を求めたり、一層厳しい要求を突きつけるようになっており、既にその影響は表れている。例えばLime(本社・サンフランシスコ)は事業地域の拡大ではなく事業の黒字転換を優先する方針に切り替えた。現金燃焼率や競争激化、規制を巡る課題が浮上して電気キックボード事業に対する投資家の慎重姿勢が強まり、今年1-3月期に終了した直近の資金調達ラウンドは当初予定の約2倍の期間を要した。一部の都市でライムが黒字化にこぎ着けたのは、キックボードの耐久性を高め、修理を迅速に行ったためだと関係者は話す。同社幹部は疑念を抱く株主を同社の倉庫に案内し、新たな効率化の取り組みを見せたという。

企業向け業務自動化ソフトを販売するUiPath(本社・ニューヨーク)は10月、収益性への関心が高まる中、約400人の従業員をレイオフした。広報担当者によると、新たな人材の採用も続けているという。投資家の期待する一部の目標を達成できなかったため、レイオフに踏み切ったと関係者は話す。

Fair(本社・カリフォルニア州サンタモニカ)は先月、従業員約290人をレイオフした。さらにCEOも辞任した。3億8000万ドルの資金調達ラウンドから1年たたずしてその大半を販売促進や雇用、不動産などの成長計画に費やした後のことだ。ソフトバンクの10兆円規模の「ビジョン・ファンド」から支援を受ける同社は、消費者やウーバーの運転手に自動車をリースする業務を行っている。成長重視の戦略は多くの投資家に熱狂的に支持されたが、Fairはそのリスクを浮き彫りにした。同社のフロリダ事業では自動車販売代理店に払う高い手数料が正しく費用に算入されておらず、単一四半期に約30万ドルの損失を計上する事態となった。また同社の自動車リースの60%近くは採算が取れていなかった。自動車購入に必要以上の額を払ったうえに、それを安値でリースし、顧客からの未収料金を必ずしも回収できていなかったのだ。

Fairのスコット・ペインター前CEOはソフトバンクに追加の資金援助を要請した。ちょうどウィーワークがIPO計画を取り下げた頃だ。ソフトバンクはFair本社に監査チームを派遣し、財務状況を調査したという。ソフトバンクが同社に12億ドルの価値があると判断してから1年もたっていない。

現在ソフトバンク及びVC投資家は支援する新興企業に対し、黒字化までの期間を短縮し、ガバナンス基準を厳格化するよう強く求め始めている。

以上、Wall Street Journalより要約・引用しました。https://www.wsj.com/articles/silicon-valley-adjusts-to-new-reality-as-100-billion-evaporates-11574764205?mod=searchresults&page=1&pos=2

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