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米企業「効率経営」ランキング2019、トップはアマゾン

 


 クレアモント大学院大学ドラッカー研究所が発表する今年の「経営トップ250」ランキングではアマゾン・ドット・コムが1位となり、前年トップのアップルを退けた。毎年行われているこの番付調査は、故ピーター・ドラッカー氏が提唱した原則を適用して、経営が最も効率的な企業を選び出すものだ。

 ネット小売企業のアマゾンは、絶え間ないイノベーションへの注力が評価された。2位にはマイクロソフトが浮上。3位から5位は、アップル、グーグル親会社のアルファベット、ネットワーク機器最大手のシスコシステムズが占めた。

 クレアモント大学院大学ドラッカー研究所の調査チームは何十項目ものデータを活用し、顧客満足度、従業員の関与と人材育成、イノベーション、社会的責任、財務体質という5つの側面で企業のパフォーマンスを評価してリストを作成した。

 この5つの柱は、長きにわたり近代経営の父とされるドラッカー氏の手法を反映している。同氏は、高い機能性を発揮する組織は、投資家だけでなく、社会にも利益をもたらす存在であるべきだと主張した。この考え方は時にもてはやされ、時に流行遅れとなった。

 ドラッカー研究所のリック・ワルツマン氏は、ドラッカー氏の発想にとって今年は画期的な年だったと指摘。「大企業は、社会における役割を考えている。より端的に言えば、株主だけでなく、すべての利害関係者に奉仕する方法を考えることだ。それはまさにわれわれのランキングが評価しようとしているものだ」と述べた。

 ハイテク企業が今年のリストの上位を独占しているが、リストの中には、小売りのウォルマート、飲料メーカーのペプシコ、宅配のユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)、自動車メーカーのフォード・モーターとゼネラル・モーターズ(GM)など広範な分野の企業が含まれている。

警告と論議を巻き起こした問題

 すべての企業には欠点があるが、この番付は、しばしば相反する経営の優先項目間のバランスを特にうまく調整した企業を選び出すことを目指している。その判定基準には、業界標準に対する従業員の給与水準、特許申請件数、3年平均による株主分配総額などが含まれる。

 今年調査対象となった企業は820社で、34項目の指標には幾つかの新たな項目が組み込まれた。それが、一部の番付順位の変化を説明する要素になっている。今年の経営トップ250には、保険のプログレッシブ・コープ、クラウドソフトウエアのサービスナウ、資産運用最大手のブラックロックなどの新顔が48社含まれている。

 調査担当者らはまた、ドラッカーの評価基準のうち1つで特に得点が低かった企業を明示するため「レッドフラッグ」システムを導入した。フェイスブックは、顧客満足度のスコアが低かったため、レッドフラッグを1つ付けられた。同社は、データのプライバシー保護の不備と、虚偽情報の掲載に関する論争を引き起こしている。

 ドラッカー研究所の調査担当者らによれば、最も充実した解説をもってしても、企業が抱えるすべての問題点を、完全に把握することはできない。そして、一部の評価基準にはタイムラグがあるかもしれない。2019年のリストに掲載された組織のうち、一握りの企業は、大きな論争の最中にある。8位にランクされたジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)は今年、オピオイド、ベビーパウダーなどの製品の安全対策と販売手法をめぐって、10万件以上の訴訟に直面した。10月には、陪審が1人の男性に対する80億ドル(約8700億円)の損害賠償を認めた。この男性は、子供のころにJ&Jの抗精神薬リスパダールを使用して、乳房組織が肥大化したと主張した。J&Jはこの評決について上訴している。

 同社は、タルク粉末(ベビーパウダーの主成分)に関連した多くの訴訟で勝訴しており、社にとって不利なすべての評決について上訴しているとの声明を発表している。同社はまた、米国内で出されたオピオイドの処方箋のうち、自社製品の比率は1%に満たないとしている。

 J&Jの広報担当者は、同社が社会的責任を果たすことに注力していると付け加え、アフリカでエボラ出血熱の集団発生を食い止めるため、50万回分のワクチンを寄付していることや、抗寄生虫薬バーモックス10億回分の生産・寄付を予定していることを指摘した。

 31位のボーイングは、同社史上最悪の危機を切り抜けようとしている。新型旅客機「737MAX」2機が墜落し、計346人が死亡した事故を受け、同社の企業文化に対する厳しい批判が相次ぎ、手抜きをしたために安全が脅かされたのではないか、規制当局や航空会社に不完全ないし誤解を与える情報を与えていたのではないかとして、調査を受ける事態に直面した。

 ボーイングの広報担当者は、同社がMAXの安全な運航再開に向けて努力していると述べ、同社が「企業文化を一層強固にし、安全、品質、誠実さという永続的な価値観を強化する措置を講じている」と付け加えた。

イノベーション面の強さ

 アマゾンは今年、イノベーション面で非常に高い評価を得て、リストのトップに躍り出た。その方面のパフォーマンスを示すスコアは、他のどの企業と比較しても2倍以上高かった。同社は特許出願、商標登録、研究開発費の面で他社をしのいだ。特許を放棄する比率も他社より高く、ドラッカーの研究員らは、同社が時代遅れの技術を追わないようにしていることの表れだと指摘した。

 アマゾンは、人工知能(AI)、拡張現実(AR)やロボティクスなどといった最先端分野の求人数でも、最も高い評価を受けた。同社に長く勤める従業員によれば、同社はクリエーティブなプロセスの一環として、書くことを非常に大切にしている。これは組織がアイデアを磨き、新たな製品やサービスを考案するのに役立っている。

 アマゾンの企業文化は、創業者であるジェフ・ベゾス最高経営責任者(CEO)によるトップダウン方式で形作られたものであり、長年、長いスライドによるプレゼンテーションを行わない方針を採っている。その代わりに従業員は、6ページを超えないメモを提示する。会議に出席する人は、冒頭にそのメモを黙読する。ベゾス氏はある投資家向けの書簡の中で、このメモを使う手法を称賛し、「中には天使の歌声のような明瞭さがあるものもある。(メモは)考え抜かれた素晴らしいもので、会議を質の高い協議の場にする」と述べていた。

 アマゾンでロボティクスの責任者を務めているジャクリーン・アンダーバーグ氏は、メモを良いものにすることに従業員が執着する場合もあると述べる。従業員は何度もメモを編集し、フィードバックを集めて、できるだけ簡潔なものにすることを目指す。1つのメモを完成させるのに何週間もかかる場合もあるという。

 工学の教育を受けたアンダーバーグ氏は、仕事で文章を書くことになるとは思っていなかった。しかし、何十回もメモを作成した経験から、それが効率的に情報を交換し、スマートな話し合いを始める方法の1つになることを知った。「今はパワーポイントを嫌っている」という。

 メモは、数々のイノベーションのルーツになっている。顧客に最短1時間で商品を配送するサービスの「プライムナウ」も、従業員の3分の1を再教育する判断の一助となったプログラムもそうだ。

 同社に21年以上勤めている「アレクサ・エクスペリエンス」グループ・バイスプレジデントのトニー・リード氏は、チームに対し、メモの段階であまりにも多くの技術的な問題を解決したり、よく分からない状態で無理やり結論を出したりしないよう指導している。「それをすると、プロジェクトのレベルが平均的な水準に落ちてしまう。なぜなら、その技術は存在しない可能性が高いからだ。それはわれわれが発明しなければならないものかもしれない」。

 同氏によると、アマゾンのアレクサは、後にそれを動かすための技術を構築する必要があったものの、メモで示されたビジョンが出発点だった。これが、リード氏がチームに対して文書作成に十分な時間をかけるよう促している理由だ。

 「スケジュールと頭の中にしっかりとスペースを取り、書くことを考えて、それに時間を費やせるようにしなければならない。とりわけ、これまでになされていない先見的な何かを考え出そうとしているならだ」と話した。

 アマゾンはイノベーションでは突出している一方、他の側面の評価ではむらが多かった。社会的責任について同社は改善に努めているものの、平均以下だった。ベゾス氏は今年に入り、事業活動に伴う二酸化炭素(CO2)排出量を2040年までに実質ゼロにする目標(カーボンニュートラル)を掲げた気候変動問題への取り組み計画を発表している。

 アマゾンはまた、労働団体や議員から従業員の扱いをめぐって批判されている。この関連で同社は昨年、米国内の従業員の最低賃金を時給15ドルに引き上げたほか、社員による新たな技能修得の支援に重点を置いている。技能修得ではアマゾンの仕事と関係のないものについても認めている。

全項目への適切な対応

 少数の企業は経営に関する5つの側面全般にわたりとりわけ高いスコアを獲得し、競合する他社との違いを見せた。今年「全5分野で5つ星(all-stars)」を獲得した8社には総合ランキングで25位となった医療機器メーカー、エドワーズライフサイエンスも含まれる。同社は顧客満足度で最高スコアを獲得した企業の1つとなった。

 エドワーズの最高経営責任者(CEO)、マイケル・ムサレム氏によれば、同社の運営は、患者・臨床医によく対応できれば従業員の満足度も向上し、財務面の結果にもつながるとする価値観に基づいている。同社の株価は今年10月末までの3年間に164%上昇し、同じ期間のS&P500種指数の上昇幅である48%をはるかに上回った。

 ムサレム氏は、従業員に幅広い目的意識を持たせるようエドワーズが広範囲におよぶ取り組みを行っていると語った。患者が自分の心臓人工弁をハンドメイドで製作したスタッフと会えるよう、患者たちをオフィスに招待するイベントを定期的に開催している。

 「それはわれわれのスタッフを大きな喜びで満たすものだ」とムサレム氏は語った。「会社でどのような役割を担っているのかが重要なのではない。こうしたことを行うために会社が1つになること強調している」

 エドワーズのほか、総合ランキングで15位となった家庭用品メーカー、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)も今年、オールスターを獲得した企業だ。同社には洗濯用洗剤「タイド」や台所用洗剤「ドーン」などの製品がある。P&Gのジョン・モラー最高財務責任者(CFO)は、同社が社員による取り組みや開発に重点を置いていると強調した。モラー氏によれば、P&Gでは、さまざまな製品分野、事業分野での関与を経験させながら社員を育成しており、社員向けに複数年のキャリアプランを作成している。

 モラー氏は、同社では在職期間の長い社員が多いことについて、意見を聞いてもらい、評価されていると社員が感じているためだと指摘した。「会社への貢献を促し、それに報いるのが企業文化だ」と強調した。

大幅に躍進した企業は

 今年の番付で最も大幅にランクを上げた企業は、給与計算アウトソーシングの大手、オートマティック・データ・プロセッシング(ADP)だ。総合スコアが56.7から64.7へと8ポイント上昇した結果、順位は昨年の104位から62位へと躍進した。

 ADPは米国の労働者2600万人分の給与計算を行っており、処理したデータに意味を持たせるよう積極的に取り組んでいる。例えば、こうしたデータにより、社内のどの部署で不要な超過勤務による支出が発生している可能性があるのか、あるいはどの部署で予想以上に速いペースの人材の自然減が生じているのかなどが分かる。ある企業での離職率が競合他社よりも高い場合、ADPはこの会社に注意喚起を促すことができる。またADPでは、企業の組織構造を同様の規模の組織と比較するツールの開発も進めている。同ツールでは、例えば、ある企業について、中間職のマネジャーが多過ぎる点を指摘することも可能になる。

 社内への対応についてADPは社員の満足度を上げるため、独創的な方法を試みている。同社の顧客業務担当サービス部門のプレジデント、ジョン・アヤラ氏は数カ月前、あごひげと口ひげをつけて変装し、最近採用された社員と数日間、研修室に一緒に座って過ごした。社員の多くは職歴が短く、仕事についた最初の1週間だった。ADPの最高経営責任者(CEO)、カルロス・ロドリゲス氏によれば、アヤラ氏は最後に身分を明かしたという。ロドリゲス氏は、こうした努力は新人研修の内容を改善し、若い社員の関心がどこにあるのかを理解するうえで貴重なものだと述べた。

 ロドリゲス氏によれば、ADPの社員は5万8000人おり、このため、「社員の仕事ぶりや生産性、あるいはその他の判断基準内容をわずかに改善するだけで、会社の成功に大きな違いが出る」という。同氏は「財務上の結果だけに焦点を当て、従業員に配慮しなければ、最終的には機能しなくなるだろう」と指摘した。

以上、Wall Street Journalより要約・引用しました。https://www.wsj.com/articles/the-best-managed-companies-of-2019and-how-they-got-that-way-11574437229?mod=searchresults&page=1&pos=2

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