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激変するベンチャー投資、米国からアジアに主役交代

 

中国勢やソフトバンクなどが脅かすシリコンバレーの地位

長らくベンチャーキャピタル(VC)の王者として君臨してきたシリコンバレーだが、現在、その座がアジア勢に脅かされている。

10年前、世界の革新的ハイテク新興企業や若い企業の資金調達は75%近くが米国で行われており、米国の投資家は自国を拠点とするベンチャー企業を中心に資金を投じていた。それが今では、主に中国発の新たな資金のうねりもあって調達資金の総額が大きく膨らみ、ベンチャー投資の地図が様変わりしている。

 アジアの投資家は昨年、米国の投資家にほぼ匹敵する資金を新興企業に投じた。昨年は世界のベンチャー投資が過去最高の総額1540億ドルとなったが、その40%をアジアの投資家が占めた(米国勢は44%)。アジア勢の割合は10年前には5%未満だった。

有望な新興企業に流れ込む資金の変動は、人工知能(AI)から自動運転車に至るまで、世界のイノベーションを誰がコントロールし、その果実を誰が得るのかの変化を予兆しているのかもしれない。

マイクロソフト とグーグルの中国部門を率いた後、2009年に北京でVC会社の創新工場(シノベーション・ベンチャーズ=旧イノベーション・ワークス)を創業した李開復氏によれば、中国ベンチャー市場の隆盛は「世界を見る視点が1つから2つに変わる流れを示している」。

ベンチャーソースのデータによると、米国の投資家が世界最大のベンチャー資金供給源であることに変わりはなく、2017年には調達ラウンドの半分近くに参加するなど、取引件数も最大だ。米国は依然としてイノベーションの重要なけん引役であり、中国の投資の多くは規模で勝るとしても米国の技術を模倣しているだけだ。

ただ、アジア資金の大幅な増加は、新興企業が新たな技術に充てられる資金の増加も意味する。また、欧米企業が切望する、あるいは国家安全保障が絡む市場の一角をアジア投資家が獲得することにもなる。米政府はAIなどの主要技術における中国の進歩に警戒感を強めている。

ハーバード・ビジネススクールのジョシュ・ラーナー教授は、拡大するアジア系VCの資金プールを「革新的活動の強力なロケット燃料だ」と指摘。そのうえで「発明の中心であることが国内総生産(GDP)などを押し上げるとすれば、アジア資金の拡大は米国の競争優位性の低下を意味する」と話す。

アジア最大級の投資家に、中東マネーを取り込んで世界最大のIT投資ファンドを立ち上げた日本の ソフトバンク グループがある。しかし、最大の影響力を持ちつつあるのは中国勢だ。

中国は評価額10億ドル以上の新興企業「ユニコーン」を米国とほぼ同じペースで生み出している。 アリババグループ や テンセントホールディングス といったネット大手に加え、過去数年、年間数十億ドルを集めてきた国内VC会社1000社超から資金を調達しているのだ。中国勢が主導するベンチャー投資は2013年以降で約15倍に増えた。それに対し、同じ期間の米国勢主導のベンチャー資金の伸びは2倍にとどまっている。

中国勢による投資の対象はこれまで、大半が自国企業だった。口コミ情報サイトの美団点評など、そうした中国企業の多くは国内では数百万人の顧客を持つおなじみの存在だが、他国ではほとんど無名だ。

中国のIT投資家は、自国での成長鈍化と競争激化を受け、国外に市場を求め始めた。昨年には中国勢が主導した国外ベンチャー投資の金額が2倍以上に増えた。

2017年に中国勢が主導した5大ベンチャー投資のうち3件は、テンセントまたはアリババが主導した案件で、対象はEコマースやライドシェアを手掛けるインドとインドネシアの新興企業だった。

JPモルガン・チェースでアジア太平洋地域部門の責任者を務めていた顧宏地(ブライアン・グ)氏は、中国IT企業の多くは「自国市場だけでは事業とバリュエーションを支えきれない水準に達している」と指摘。「資金はまず、中国の技術、中国のビジネスモデル、中国の資本がより大きな影響を持ちそうな近隣市場に向かうだろう」と述べた。同氏は最近、アリババの電気自動車(EV)新興企業、小鵬汽車の副会長兼社長に転身した。

米中の争奪戦に

新技術に対する中国の攻勢が米国で多くの懸念を呼んでいる一因は、欧米のベンチャー投資が良好なリターンの追求に支えられているのに対し、中国勢の投資には戦略的利益が動機の案件も多く、一部に国家の影が見え隠れすることだ。

中国の投資家は、政府が肩入れする半導体やAI分野でも攻勢を強めている。中央政府や地方政府は民間ベンチャーファンドに資金を投じており、政府の関与がベンチャー投資ラッシュに拍車をかけていると専門家らは話す。

中国勢のベンチャー投資には、顔認識技術を手掛ける北京曠視科技(メグビー・テクノロジー)といった企業への出資もある。同社は金融機関と協力し、融資審査用のデータベースと顔認識データをマッチングさせるシステムを開発してきた。監視システムで警察にも協力している。

AI新興企業に対しては、米国の投資家がなお中国勢より多くの資金を注いでいる。昨年の調達ラウンドでは40億ドルと、前年の2倍を投資した。一方、中国の投資家が昨年主導したAI新興企業の調達は25億ドル前後。ただ数年前には1億ドル未満だった。

ベンチャー投資家の李氏は、中国のIT企業が向こう5~10年でハイテク開発のペースメーカーになり、英語圏や西欧以外の市場での覇権をアルファベット傘下グーグルや フェイスブック などと競うようになると予想している。

李氏は「世界の残りの地域は全て、基本的に米中の争奪戦になるだろう」と話す。「米国のアプローチが『われわれはより良い製品を作り、全ての国を制覇する』」なのに対し、中国のアプローチは「米企業を撃退するために地元パートナーに資金を提供する」だという。

アジア勢の台頭は、1億ドル以上のベンチャー投資で一段と目立つ。新興企業のバリュエーションが膨らむなか、そうした「メガディール」はベンチャー資金調達で一段と重要な役割を担うようになった。

2017年には、中国の投資家が主導するメガディールの割合が米国勢のそれを上回った。日本勢(主にソフトバンク)は3位だった。

クレディ・スイス のエコノミスト、サンティタルン・サティラタイ氏によると、東南アジアは地元新興企業への中国マネー大量流入を受けて中国に近づいている。インドネシアのネット通販大手トコペディアは昨年、アリババをはじめとする企業から11億ドルを調達した。

中国マネーは、次の大型インターネット市場とされる人口12億人のインドでも大きな役割を果たしている。昨年インドで行われたベンチャー資金調達では、中国と日本の投資家がそれぞれ主導した案件が30億ドル弱と、米国勢の20億ドル弱を上回った。

配車サービス大手ウーバー・テクノロジーズと競合するインドのオラは昨年、テンセントやソフトバンクを中心とする投資家から11億ドルを調達した。テンセントとソフトバンクはオラの親会社に取締役も送り込んでいる。

以上、Wall Street Journalより要約・引用しました。

https://www.wsj.com/articles/silicon-valley-long-dominated-startup-fundingnow-it-has-a-challenger-1523544804?mod=searchresults&page=1&pos=2

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