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富はスーパースターに 労働分配率、世界で低下 

 

経済は緩やかに成長しているのに、インフレ目標が達成されない。給料が伸び悩む。といったことが言われて久しい日本及び先進国だが、以下の記事のように、実際の経済が労働集約的でないIT企業に牽引されていることもその理由の一つかもしれない。

技術革新が賃金を抑えているのではないか。そんな見方が世界で広がっている。世界の人たちの暮らしぶりを変えた米アップルや米フェイスブックなどのネット企業は、労働集約的な伝統産業ほど雇用を生まないためだ。企業が稼いだ利益は資本家に集中し、労働者に回りづらくなっている。

「労働分配率の低下とスーパースター企業の興隆」。米マサチューセッツ工科大学(MIT)のデービッド・オーター教授が5月に発表した論文が注目されている。アップルや米アマゾン・ドット・コム、フェイスブックといった経済成長を生む革新企業が、賃金増の逆風になっているとの仮説を打ち出した。

例えばフェイスブック。利用者数は世界で20億人、株式時価総額は59兆円に達する。しかし従業員数は2万人と、17年3月時点の連結で36万人いるトヨタ自動車の18分の1だ。巨額の利益はおのずと、株主や革新的なビジネスモデルを作り出した人に向かう。創業者のマーク・ザッカーバーグ氏は8兆円もの資産を持つ。

オーター教授によると、米国で顕著なこの傾向が「国際的にも起きている」。従業員の給料を国内総生産(GDP)で割った「労働分配率」は先進各国で低下傾向をたどる。その分、資本家への配分が増えている。

こうした企業は「高収益でもあまり実物投資はせず、M&A(合併・買収)を優先する傾向が強い」(富士通総研の早川英男氏)。アマゾンは137億ドル(約1.5兆円)でホールフーズを買収。米グーグルも多くのベンチャー企業を取り込んできた。ここで莫大な富を手にするのは買収される企業の株主。従業員の賃金には及びにくい。

経済学者はこれまで、労働分配率が下がれば、いずれ人手の割安さが意識され、給料は上がると考えてきた。だがスター企業の存在感が高まると、その構図が世界で変わった。労働組合は米国でも弱くなり、働く人たちが経営者から給料を引き出す力は落ちた。

革新はスター企業に限らない。小売店や工場など労働集約的な仕事の現場でも人工知能(AI)やロボットの活用が広がる。米マクドナルドはスマートフォンや店舗のタッチパネルで注文・決済できるシステムを急展開している。単純な作業は次々と機械に置き換わっている。

国際労働機関(ILO)の分析では、主要国の生産性は直近の16年間で19%ほど上昇したが、実質賃金の伸びは9%ほどにとどまった。機械の力で生産性が上がっても、労働者には十分還元されていない。一方で世界の株式時価総額は90兆ドル(1京円)を超え、過去最高の更新を続ける。世界の年間GDP(78兆ドル)との差は開く一方だ。

新興国への生産移転と空洞化を経験した先進国は、イノベーションが停滞する経済を推進する力と信じてきた。信じてきた革新は今、ほんの一部の企業が主導している。イノベーションが競争ではなく寡占を生むなら、成長の果実も寡占される。

以上、日本経済新聞より引用しました。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO22937520R31C17A0EE8000/?dg=1

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