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パイロットからトラック運転手へ

 

航空業界で最も尊敬され、高給を約束されていた職種へのパンデミックの影響

コリン・ワグナーは大学時代、自動車運転免許取得ではなくプライベート機のパイロット免許を取得するために貯金を使った。大学卒業後は産業エンジニアとして働いたが、金融危機で仕事を失い、それをきっかけに大学時代取得したパイロット免許を生かして地元の航空会社でパイロットの仕事をするようになり、飛行時間を重ねた。昨年大手アメリカン航空に採用され、エンブラエルE-JET機を操縦するようになった。
しかし今年10月以降、44歳のワグナー氏はオハイオ州デイトンでトラックドライバーの仕事をしている。彼はベッドルームの引出にしまってあるパイロット時代の制帽を時々取り出しては眺め、自分はパイロットだったということに思いを馳せる。

新型コロナウィルスのパンデミックにより、従来地位・高給が約束されていたはずのパイロットのキャリア・パスはとても不安定になった。若手のパイロットは職を失い、経験豊かなシニア・パイロットは早期退職を促された。

ブリティッシュ航空のパイロット組合はつい最近パイロット養成学校に通う学生に向けてインスタグラム上で注意喚起のビデオを流した。卒業を遅らせるよう喚起するビデオ・メッセージだ。パイロット組合長のパーシー氏は「私の23年のパイロット経験の中で、このようなメッセージをパイロット志望の若者に出す日が来るとは考えたこともなかったし、実際悪夢のようだ」と述べる。

自宅勤務への切り替えがきき、収入への影響のない職についている友人や近所の人々と比較すると、航空業界従事者の受けている痛みは本当に激しい。

オーストラリアのカンタス航空で25年間パイロットとして勤務してきたグレッグ・ハーパー氏は2人の子供と、住宅ローンの返済を抱えている。カンタス航空より一時休職の通達を受けた後、ハーパー氏は地元の食品スーパーと建設現場での作業車運転の仕事を掛け持ちし、週70時間働いて収入を得ている。52歳のハーパー氏は「この年で人に指示されて買い物かごの掃除をしたりしているとそりゃあ惨めな気持ちになることもある。でも家族のためだと自分に言い聞かせてやっているよ」と言う。写真はパイロット時代(操縦席左)と現在のハーパー氏。

デルタ航空のシニアパイロットであった62歳のゲイリー・クラスノフ氏は、この夏会社から早期退職を促された際、胸が苦しくなり、呼吸ができなくなるような感覚を味わった。仕方なく早期退職を受け入れた今も、玄関にはいつものようにパイロットとして持ち歩いていたスーツケースを置いたまま、片付けることができないでいる。

パイロット達の職に対する情熱は強い。多くが若いころから飛行機の操縦に憧れ、一生を捧げる仕事としてこの道に入っている。ワグナー氏やハーパー氏のように、仕方なく別の仕事についている人々の多くは複雑な心境を抱えている。

スイスジュネーブに本社を置くエア・トランスポート・アクション・グループの推測によると、パンデミックの影響で職を失った航空業界従業者(航空会社、関連製造業、航空指令業務、空港関係者等)の数は世界で480万人にのぼる。これはパンデミック以前の雇用の40%を占める数値である。内、航空会社全体では約130万人が職を失ったと推定される。パイロット職の統計はないが、EU圏だけで約17000人のパイロットが職を失ったと言われる。会社別には、アメリカン航空が1600人、ノルウェイジャン航空が1900人、ブリティッシュ航空、ルフトハンザ、エールフランス、KLM航空がそれぞれ数百人のパイロットに一時休職を通達した。

パイロットの労働組合は世界で最も結束力の強い労働組合でもあり、航空会社経営陣との対立も激化している。

香港のキャセイ・パシフィックは今年10月、同社のパイロット労働組合に58%減給の新契約書を配布し、2週間で同意するか、さもなくば退職するかの決断をするよう求めた。1週間で同意したパイロットには、若干のボーナスを出すというオプション付きだった。キャリア、家族、人生設計、様々なことに影響を及ぼす重大な決断であるにも関わらず、パイロットにはたった2週間の猶予が与えられ、選択肢も少なかった。ただ、最終的には同社2600人(98.5%)のパイロットが新契約を受け入れた。

イギリスで対新型コロナウィルスのワクチンが承認され、他国も追随すると想定される中、航空業界は2021年後半には回復基調となることを期待している。ただ、パンデミック以前の状況まで航空顧客の足が戻るには数年を要するとの見方もある。パンデミックで職を失った航空業界従事者が再び空の仕事に就けるようになるにはまだ時間がかかりそうだ。

つい昨年まで、世界の大手航空会社は新規パイロット獲得に躍起になっていた。ユナイテッド航空はパンデミック直前までパイロット養成校の買収を検討していたくらいである。パイロットの育成には最低5年かかる。2025年には航空業界がパンデミック以前の状況に戻っていると想定するならば、今からパイロット育成をしていなければならない。パンデミックの煽りを受けてまず職を失ったのは飛行経験の少ない若手のパイロットであり、このままでは世界はパイロット不足となる。今年パイロット育成校を卒業した新人も、大半がパイロット職を見つけられずに宅配ドライバー等の仕事に就いている。アメリカではシニア・パイロットの年収は平均35万ドル(約4千万円)であり、従来とても魅力的な職業であった。

以上、Wall Street Journalより要約・引用しました。
https://www.wsj.com/articles/from-pilot-to-truck-driverairline-careers-grounded-by-pandemic-11607367164?mod=searchresults_pos1&page=1

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