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米「株主第一主義」に転機 社会の分断に危機感

 

シェアホルダー(株主)だけでなく、幅広いステークホルダー(利害関係者)の利益を考えなければ資本主義は機能しない。今に始まった議論ではないが、今までの資本主義・株主第一主義の考え方を修正する方針に米主要企業の経営者団体が署名宣言したことは画期的である。
米国型の資本主義が大きな転機を迎えつつある。米主要企業の経営者団体、ビジネス・ラウンドテーブルは8月19日、従来の「株主第一主義」を見直す宣言をまとめた。金融危機後の10年間で力強い回復をみせた米国の企業社会だが、深まる格差や環境問題に向き合わざるをえなくなってきた。

公表した声明文は、株主利益を最も重視することが経済全体を前に動かすと考えてきた米国型経営を改める内容だ。顧客や従業員、取引先、地域社会といった利害関係者に広く配慮し、長期に企業価値を高めるという。

JPモルガン・チェース、アマゾン・ドット・コム、ゼネラル・モーターズなど、米国を代表する181人の経営トップが声明に名を連ねた。

振り返れば、金融資本主義の暴走がリーマン・ショックを招いた。しかし危機を脱するために取った施策はさらなる金融緩和であり、減税だった。株価や土地など資産価格の押し上げが経済を支えたが、持つものと持たざるものとの格差はそれまで以上に広がった。

例えば、米国では企業トップの報酬総額が、中央値で従業員給与の200倍を超えるとの調査がある。極端な例だと4万倍の企業さえある。企業は高い利益を上げ、多くを自社株買いに投じた。株高がトップの報酬を押し上げたが、従業員の給与は上がらぬまま。その持続性が問われている。

仏経済学者ジャック・アタリ氏は2030年を展望した著書で、世界の人の「99%が激怒する」時代の到来を予測した。富の極度の集中、環境負荷に歯止めをかけなければ、人々の怒りが爆発するとの予言だが、その流れを米国企業も無視できなくなってきた。

2020年には米大統領選が待つ。野党・民主党候補の一人、エリザベス・ウォーレン氏は昨年、反資本主義的な施策を打ち上げ、選挙民に訴えている。米企業トップは自分たちに向かう逆風の強さを感じ取っているはずだ。

今回のビジネス・ラウンドテーブルの宣言には賃上げや環境対応といった具体策は盛り込まれておらず、実効性は測れない。もはや株価上昇は限界と感じる経営者による目標の差し替えだと斜めにみる向きもあるだろう。

そういう面を含めてもトップ自らが軌道修正を宣言した意味は大きい。そして、長期志向の株主の方から、広く利害関係者を意識した経営を求める声が上がっている点は見逃せない。

すでに欧州は修正で先を行く。英国は上場企業の企業統治指針(コーポレートガバナンス・コード)を改め、利害関係者として従業員の声を経営に取り込むよう求めた。1月以降に始まった決算期から適用している。

日本のここまでの企業統治改革はむしろ、株主重視へ振り子を振るかたちを志向した。それは従業員や取引先、社会を大事にする企業文化の素地がある半面、利益水準は低いままで30年に及ぶ株価低迷を抜け出せないことへの反省からだ。

いわば双方離れていた振り子が、米国からは日本の方へ、日本からは米国の方へ寄る動きともみえる。

宣言のタイトルには「すべての米国人のためになる経済」とある。企業が社会と調和しながら持続的に成長していく資本主義はどうあるべきか。少なくともこれまでの延長線の先には答えがないと考え、各国それぞれが道を模索する。その色合いが一段と強まっている。

以上、日本経済新聞、Financial Timesより要約・引用しました。https://www.nikkei.com/article/DGXMZO48750920Q9A820C1EA1000/
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO48843360S9A820C1000000/

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