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シリコンバレーにもコロナ失業の波、変わる職探し

 

 ハードウエアエンジニアのジョー・テイラー氏(38)は、米ライドシェア最大手ウーバーテクノロジーズからレイオフされた数時間後、新たな職を探し始めた。そこで彼が目にしたのは、輝きを失ったシリコンバレーの雇用市場だった。

 新型コロナウイルスで景気が大きく落ち込む中でも、ハイテク業界はこれまで相対的に底堅さを維持している。マイクロソフトやアマゾン・ドット・コムの1-3月期(第1四半期)決算は、コロナ封じ込めに向けた隔離措置にもかかわらず、売上高は力強い伸びを示した。

 だが、ウーバーや民泊仲介サイトの米エアビーアンドビー(Airbnb)などの大手から小規模スタートアップ企業まで、多くの企業が大規模な人員削減に踏み込んでおり、ハイテク業界だけは雇用崩壊の影響を免れるとの見方は大きく揺らいだ。多くの求職者にとって、すぐに新しい職が見つかるとの希望に冷や水を浴びせている。

 「誰もが不安をやや強めている」。今月解雇されたテイラー氏はこう語る。会社の規模にかかわらず再就職先を探しているが、リクルーターからの接触は過去に比べて明らかに少ないという。「今は何もないけど、連絡を取り合おう」。テイラー氏によると、これが多くのリクルーターが口にする決まり文句だ。

 テイラー氏はマイクロソフトのような大企業から、ワイヤレス充電を手掛ける新興企業スパンシブまで、過去15年にさまざまな企業に勤めた経歴を持つ。2008年の世界金融危機を含め、これまで業界の浮沈を経験してきた。好景気時には、企業がこぞって高い給与や手厚い福利厚生を提供してきたという。だが、テイラー氏らハイテク業界関係者を取り巻く現状は、人材獲得競争が著しく冷え込んでいる兆候を浮き彫りにする。

 テイラー氏によると、以前はリンクトインのプロフィールで就職や転職の意思を示すと、リクルーターが殺到してきたという。「リンクトイン経由で週に10件くらいは機会があったが、今ではあっても2~3件だ」

 ウーバーは5月18日、2週間前に発表した約3,700人に加え、さらに3,000人を削減すると発表。削減規模は会社全体の約25%に達した。ライバルのリフトも最近、人員の17%を削減する計画を明らかにしているほか、エアビーアンドビーも約25%の削減を実施する方針だ。

 この3社により、今月だけで約1万人が職を失ったことになり、シリコンバレー全体ではさらに削減の波が広がっている。ハイテク新興企業では、コロナ流行を受けて、これまでに5万6,000人以上がレイオフされた(雇用調査会社Layoffs.fyi調べ)。

 人員削減に踏み切らなかったハイテク企業の中でも、採用を減らす動きが出ている。マイクロソフトでは、一部の職種について採用を当面凍結する一方、戦略的に重要な分野では採用を続けていることを広報担当者が明らかにした。アルファベット傘下のグーグルは先月、採用ペースを緩めると発表している。

 現在の状況を踏まえると、シリコンバレーの就職事情が長期的に変化する可能性もある。リクルーターや業界幹部からは、景気が回復しても、業界の人材採用が急速に持ち直すとは予想していないとの声も上がる。ウーバーのネルソン・チャイ最高財務責任者(CFO)は先頃、「過去と同じ水準まで採用を増やすとは考えていない」と述べている。

 ここ2カ月に在宅勤務が主流となったことで、雇用慣行が変わる可能性もある。そうなればアップルやフェイスブックなどの企業がシリコンバレーに構えた羨望のキャンパスへの執着は薄れ、一部の仕事については、低賃金の海外労働者に流れることもあり得る。

 コロナの影響が表面化して以降、米国では3,640万人近くが失業保険を申請しており、ハイテク業界の失業者が占める割合は依然わずかだ。労働省の統計を基に業界団体コンプティア(CompTIA)が明らかにしたところによると、ハイテク業界では4月に過去最多となる11万2,000人が失業し、1年分の雇用が蒸発した。業界の中心であるサンフランシスコのベイエリアの失業者数は、少なくとも合計11万8,000人に達した(地元紙サンフランシスコ・クロニクル調べ)。

 一方で、最近まで大手に人材を奪われていた企業の中には、業界で広がるレイオフを好機ととらえ、採用を強化するところも出ている。

 サイバー攻撃への保険を提供するスタートアップ企業、コアリションはこのほど、資金調達ラウンドで9,000万ドル(約97億円)を確保し、3月以降およそ20人を採用した。年内にさらに80人を採用する計画だ。ジョシュア・モッタ最高経営責任者(CEO)は、企業のリスク回避姿勢が強まる中で、同社の商品に対する需要が高まるとみている。

 大手ハイテク企業も、急成長分野の一部では採用を強化している。アマゾンのクラウド部門アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)や遠隔会議サービスの米ズーム・ビデオ・コミュニケーションズは、人材の確保になお余念がない。フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOは先月、プロダクトやエンジニアリングの職種で、今年少なくとも1万人を雇用すると述べている。

 シリコンバレーの求職者にとって確実に変化した点は、採用までのプロセスだろう。人との接触機会が限られる中で、面接の多くはズームなどの動画サービスを通じて行われている。だが、中には工夫を凝らして、直接会う機会を探る企業もあるようだ。その一例として、タレントフット・エグゼクティブ・サーチのエグゼクティブシニアコンサルタント、ブライアン・コップ氏は、適切な対人距離を確保しつつ、ゴルフのラウンドを回りながら、雇用主側と採用候補者が会う機会を設定していると話す。

 遠隔勤務に対する米企業の抵抗が薄れていることで、前出のタイラー氏も、デンバーなど、シリコンバレー以外の場所にも就職先の候補を広げている。当面はベイエリアに残り必要なら在宅勤務するつもりだったが、近くのハイテク企業のオフィスで職を見つけることが必要不可欠だとはもう考えなくなったという。

以上、Wall Street Journalより要約・引用しました。
https://www.wsj.com/articles/coronavirus-layoffs-remake-silicon-valley-job-market-11589968800?mod=searchresults&page=1&pos=2

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