米国ティーンの車離れ - 戸惑う親と自動車メーカー
米国のティーンエージャーの現状を見ると、自動車メーカーはもはや米国人の車への愛着を当てにすることはできないかもしれない。
運転免許を持つ10代の若者の割合はここ数十年減少しており、車の初購入年齢も高まっているとアナリストや世代問題の専門家、自動車業界幹部らは口をそろえる。16歳の若者のうち運転免許を持つ人の割合は1983年には半分近かったが、2017年には約4分の1と大幅に減っていることが明らかになった。
運転免許はかつて自由の象徴だったが、今は大半の人がウーバーやリフトなどの配車サービスを利用してあちこち移動できる時代だ。また、ソーシャルメディアやビデオチャットを介して、実際に家を出なくても友人たちと交流することが可能だ。
20代になると公共交通機関が整った大きな町に移住する人も増え、そうした場所では自動車を持つことが不要だったり、実用的でなかったりする。自動車を購入する場合でも、旧世代と比較して中古車を選ぶ人が多い。
こうした理由の1つには、新車価格の上昇がある。米自動車メーカーは「フォード・フィエスタ」や「シボレー・クルーズ」など、従来は若者の初購入車となっていた低価格の小型車や準小型車の多くを廃止している。こうした戦略はメーカーにとって理にかなっている。ここ10年は小型スポーツタイプ多目的車(SUV)やトラックの人気が確実に増している上、そうした車種の方が利益率もはるかに高い。
米国の新車販売が減速する中、1997年以降に生まれた「Z世代」の多くに見られる新たな考え方に親も自動車メーカーも戸惑っている。
「自分の車と免許を持つことで自由を得るという感覚やそれが人生で最も重要なことだという感覚はなくなった」。米自動車教習所チェーンのオール・スター・ドライバー・エジュケーションを経営するブレント・ウォール氏はこう指摘する。同氏によると、受講生の平均年齢も上昇している。
カリフォルニア州カルバーシティー在住のデービッド・メツラーさんは、16歳の娘のジューンさんが免許を取る理由がないと考えていることに困惑している。メツラーさん自身は16歳になると「すぐに免許を取りに行った」とし、「家を出ていろいろな場所に行きたかった。だが彼女にとっては、免許取得は将来の計画のようだ」と話す。ジューンさんは、友達を家に招いたり、放課後に遊んだりするだけで満足だという。
日米メーカーで異なる戦略
自動車会社幹部は、自分たちの子供たちからさえも同様の意見を聞かされており、若者の意識の変化に合わせてマーケティング戦略を調整していると話す。日本の自動車メーカーは自社ブランドに若者を引きつける手段の1つとして、低価格のセダンを維持している。米メーカーは、たとえ若者の自動車の初購入年齢が上がっているとしても、財務状況が良くなり、家族を持つようになれば、いずれ車を購入すると踏んでいる。そして、その際に買うのはSUVやトラックだと見込んでいる。自動車メーカーにとって、あらゆる価格帯の自動車を提供するのはもはや有効ではなく、成熟市場という事実に都市化と自動車所有コストの上昇が相まって、自動車販売は確実に冷え込むことになりかねないとの見方が主流になりつつある。
ますます購入を阻む要因となっているのが価格だ。JDパワーによると、2018年の新車の平均購入価格は3万2544ドルと10年前の2万5490ドルから上昇している。昨年の新車ローンの平均返済額は1カ月535ドルと家計所得中央値の10%以上に達し、大半の米国人が払えない水準になっていると調査会社コックス・オートモーティブは指摘している。
世代トレンドの研究者によると、Z世代は金融危機を見て育っており、節約志向が強い傾向がある。さらに、多くの人が多額の学資ローンを抱えていることも、高額な買い物を慎重にさせる原因になっている。米国の学資ローン債務残高は合計1兆5000億ドルとクレジットカードと自動車ローン請求額を上回っている。
ティーンエージャーにとって免許取得費用も増加している。州予算の削減で多くの公立学校が自動車教習の無料提供をやめており、民間講習は1000ドルを上回る場合があると自動車教習の専門家は話す。
小型モデルの減少に加え、メーカーがより多くの技術を車に盛り込むようになっていることも価格の上昇につながっている。より多くの技術を搭載することで修理費も高くなり、結果的に自動車保険の掛け金もつり上がるなど、多くのティーンや20代の若者にとって購入を妨げる要因が増えている。
トヨタ自動車の北米販売責任者を務めるボブ・カーター氏は、今の若者が前世代の人たちとは異なる金銭的プレッシャーにさらされていることを認識していると話す。「われわれは免取得年齢の高まりに備える必要がある」
小型車投入や定額制サービスで若者にアピール
こうした事態に対処するため、相乗りサービスや電動スクーターなどの新しい輸送ベンチャーに参入し、シリコンバレーの配車サービス会社に対抗しようとしている企業もある。しかし、電気自動車(EV)や自動運転車などの多額のコストがかかる新技術やベンチャーに投資するには、従来の自動車の販売を伸ばし続ける必要がある。
若い消費者にアピールするため、2万5000ドル未満の小型のスポーツクロスオーバー車を最近、発売したメーカーもある。例えば韓国の現代自動車は、7インチのタッチスクリーンをはじめ技術が満載された小型の新SUV「コナ」を標準価格1万9000ドルで発売した。同社は今月開かれているニューヨーク国際自動車ショーで、より小型のクロスオーバー車「ベニュー」も披露している。
スウェーデンのボルボ・カーは2年前、車を完全に所有したくないと考えるミレニアル世代やZ世代を引きつけようと、自動車の定額利用サービスを開始した。利用者は毎月約700ドル支払えば、ボルボ車を1年間運転でき、その後は別のモデルに乗り換えられる。従来のリース契約と異なり頭金などの金融費用が不要で、保険も含まれている。
一方、フォードの消費者トレンド担当マネジャーを務めるシェリル・コネリー氏は、同社が昨年、電動スクーターのスタートアップ企業スピンを買収した動機の1つには、Z世代へのアピールがあったと話す。同社は、電動自転車などの他の都市輸送ベンチャーや配車・相乗りサービスへの投資も検討しているという。
コスト面の問題が多くの若い買い手を中古車市場に向かわせており、こうした傾向は彼らが年を取っても続く可能性が高いとアナリストはみている。JDパワーによると、昨年自動車を購入した20代前半の若者のうち中古車を買った人の割合は約60%と、5年前の57%から上昇している。
以上、Wall Street Journalより要約・引用しました。
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