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ロボットが変える雇用構造

 

フロリダ州レイクランドに見る今後の世界の縮図

米フロリダ州中心部は60万人以上が暮らす大都市圏であり、全米でも有数の先進的技術を用いた物流センターが幾つか立地している。同州のレイクランド市やその周辺には、アマゾンやDHL、ウォルマート、家具販売店ルームズ・ツー・ゴー、スーパーマーケット大手パブリックスの拠点のほか、自動車保険大手ガイコの巨大なコールセンター、世界最大のワイン・蒸留酒の物流倉庫、天然・人口香料やグリッター(装飾用の光る粉)の工場などが集まっている。

 しかし米国勢調査やマッキンゼーのデータに基づく分析は、レイクランドの経済的繁栄が急速に終わりを迎える可能性を指摘している。工場や倉庫、オフィスの生産性を高めるオートメーション(自動化)や人工知能(AI)によって同市の雇用が大きく失われる可能性があるのだ。

言い換えれば、レイクランドは全米や全世界で起こりつつある現象の縮図かもしれないということだ。テクノロジーによって中間層は2方向のいずれか一方に追いやられるとエコノミストらは指摘する。適切な技能や教育を受けた人は新しい技術的エリートに、それ以外の人は「プレカリアート」という階級に分類されることになる。プレカリアートとは、テクノロジーによる仕事の性質の変貌に伴って役割が頻繁に変化する、給付や保護が手薄で雇用が不安定な低賃金労働者を指す。

レイクランドで何が起こっているかを理解するため、同市有数の雇用主で米国最大の酒類・飲料販売業者であるサザン・グレーザーズ・ワイン・アンド・スピリッツを例に取って見る。同社のレイクランドにある約130万平方フィート(12万平方メートル)の高度に自動化された倉庫は、1日に8万5000~9万ケースを出荷する世界最大の酒類物流倉庫だ。他の多くの物流業者と同じく、同社がレイクランドを選んだのは市や州の優遇措置、安い地価、幹線道路へのアクセスの良さ、比較的低い賃金水準が理由だった。

単純労働から頭脳労働へ

同社施設では368人の倉庫労働者と392人の配達ドライバーを雇用しており、その多くに必要とされるのは高卒の学歴のみだ。世界中の自動化された倉庫と同じく、人間がするのは機械ができない仕事、すなわちシステム全体の管理などの知識労働や繊細さ・スピード・視力の兼ね合いが求められる肉体労働だ。2500ポンド(約1.13トン)のパレットを5段の棚に積み込んだり、個々のクレート(酒瓶箱)を倉庫の各場所に運搬したりといった力仕事は全て機械が行っている。

多くの意味でレイクランドの倉庫はエンジニアリングの勝利を象徴している。サザン・グレーザーズの国内業務を統括するロン・フラナリー氏は、同社では10年前はフロリダで5つの倉庫を運営していたが、オートメーションのおかげで1つにまとめることができたと話す。それによって州内の他の場所から雇用がシフトしたため、レイクランドには好景気がもたらされた。

フラナリー氏によると、10年にわたるフロリダ州内の雇用移転では、オートメーションによって当初、全労働力の最大20%が解雇されることになった。しかし、オートメーションによって事業が成長するにつれ、解雇された労働者の多くが再雇用され、さらにそれ以上の雇用が生まれた。

しかし、彼らの仕事の性質は変化した。「倉庫で働く人が頭も心も使わず、肉体を使ってケースを積み上げるだけの場合、同じ事を繰り返すだけになり、仕事に全くやりがいがないというのが現実だ」とフラナリー氏は話す。しかし、オートメーションによって労働者は脳をもっと使うようになり、システムを通してモノの流れを管理し、しいては消費者需要を理解し、それに対応するようになった。その結果、離職率が大幅に低下したという。仕事が面白くやりがいを感じるようになったということだろう。

いずれ無人倉庫が登場

同社の倉庫には、まだ大勢の非熟練労働者が必要な工程がある。容器から個々の瓶を取り出して、輸送コンテナに運ぶ最後の「ピッキング」ステーションだ。機械の補助によって人間が作業を完遂するこうした工程は、アマゾンにしろアリババにしろ、どこのハイテク倉庫にもよくある。これは、世界中の数百万人の倉庫労働者を技術的失業から隔てているものが手先の器用さであって頭脳ではないということを意味する。 

しかし、労働市場の逼迫(ひっぱく)によって、オートメーションは一段と迫られている。フロリダ州の失業率は既に低く、12月時点で3.3%だ。フラナリー氏は「いずれ無人倉庫が登場し、ケースがトラックから降ろされたら顧客への出荷準備が整うまで再びそれを誰も目にすることがない、といった時代がやってくる」とし、「テクノロジーは既にあるが、まだ費用対効果があまり良くないというだけだ」と話す。

マッキンゼーでテクノロジーの影響に関する研究を主導するマイケル・チュイ氏は、今のところ、ドイツや日本などのオートメーションが高度に進んだ国と比較してフロリダは人間の労働コストが比較的低いため、オートメーションの導入ペースが抑えられていると指摘する。

長期的に見た場合、オートメーションによって雇用が減少することを示す証拠はない。むしろ、オートメーションを速いペースで導入している国ほど経済成長も速いようだ。しかし、これはオートメーションに伴う解雇に直面する人にとってほとんどなぐさめにならない。オートメーションによって雇用需要は純増しているが、多くの入れ替わりがあるからだ。

個々の業務が自動化されるにつれ、両極化した賃金分布の低い方の分布にいる米労働者は別の仕事の訓練を受け直すか、少なくとも他の覚えるのが簡単な役割に切り替える必要がある。その結果、生涯にわたり雇用が不安定化する可能性がある。

テクノロジーが急速に変化することで職を失う年配の労働者については、新しいことを学ぼうとする強い意志があれば、「スキルアップ」することで、より高度な仕事に移行できる可能性がある。これは、スイスのダボスで今年開かれた世界経済フォーラム年次総会の主要テーマでもあった。

マッキンゼーによると、新しいテクノロジーの登場で解雇される人にとって、ロボットがすぐには取って代われない他の仕事がたくさんある。看護や介護など一定の訓練が必要なものもあれば、家事やウーバーのドライバーなど訓練が必要ないものもある。問題は、増え続けるプレカリアートがそうした仕事の労働条件や賃金に満足するかどうかだ。

以上、Wall Street Journalより要約・引用しました。

https://www.wsj.com/articles/here-are-the-u-s-cities-most-likely-to-be-disrupted-by-robots-11549688401?mod=searchresults&page=1&pos=1

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