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ゴールドマンが一般個人向け融資事業に参入

 

米金融大手ゴールドマン・サックス・グループの社員数百名が、米ユタ州ソルトレークシティにあるガラス張りのオフィスビルに集結している。消費者向け融資事業を手がける新興企業を軌道に乗せるためだ。

超富裕層や大企業を相手にしてきた同社は、金融危機後に新たな収入源を見いだせずにいた。そのためこれまでは関わってこなかった分野に足を踏み入れ、中流層を相手にビジネスを試みる方針だ。

ゴールドマンのオンライン融資事業「マーカス」がスタートしたのは1年半前。名前の由来は同社の創業者マーカス・ゴールドマン氏だ。個人がゴールドマンと取引する際、以前ならば1000万ドル(約10億7000万円)持っていなければ同社の関心を引くことができなかった。今なら1ドルからマーカスに預金口座を開くことが可能だ。

その他にも買い物客を対象としたローンや一般向けの資産管理、家計向けの管理ツール、さらには保険や住宅ローン、そして自動車ローンなどといった分野にも今後は進出する予定だと計画に詳しい関係者らは話す。

2006年からゴールドマンの最高経営責任者(CEO)を務めるロイド・ブランクファイン氏にとって、消費者金融に進出することはイチかバチかの賭けだ。同氏は金融危機以前、積極的にリスクの高い分野にトレーダーたちを向かわせることで頭角を現した人物だ。その後、ゴールドマンは金融危機を引き起こした中心的な存在と見られるようになり、非難が集中。新たな規制や市場の変化を受け、トレーディング部門から同社が得ている利益は縮小する。ブランクファイン氏がレガシー(遺産)を残せるかどうかは、平凡な事業展開で収益を上げられるかどうかにかかっている。

昨年、そのブランクファイン氏はマーカスの顧客数名に直接電話をかけ、感謝の意を伝えた。今は顧客から受けるクレームにも定期的に目を通し、重大な内容については責任者に対処を指示する。

ウール製のスニーカーを履く責任者

マーカスはこれまでに25億ドルを融資し、ローンや預金口座を持つ顧客は35万人を数える。ニューヨーク、ソルトレークシティ、そしてダラスで働く総計約700人のマーカス従業員のトップは、2015年に入社したハリット・タルワー氏だ。

米クレジットカード大手 ディスカバー・ファイナンシャル・サービシズ 出身のタルワー氏はウォール・ストリート・ジャーナルとのインタビューで、「われわれは確かに大きな志を持っている」と述べた。インタビューが行われたのはマンハッタンにあるゴールドマンの本社26階。部屋の片隅にはポップコーンを作る機械が置かれていた。シリコンバレーで人気のウール製スニーカー「オールバーズ」を履いた同氏は、「われわれのやるすべてのことの中心には顧客がいる」と続ける。

マーカスの拠点となっているソルトレークシティでは、カスタマーサービスの担当者らが小口の借り手からの問い合わせに応じる。同じゴールドマンでも、ニューヨークで働くトレーダーたちはいつか最高の職位である「パートナー」になることを目指す。一方、ソルトレークシティの従業員らが目標とするのは、顧客からの肯定的なフィードバックが最も高い「ビッグバード」のステータス獲得だ。

とはいえ米銀大手の バンク・オブ・アメリカ やJPモルガン・チェースは、顧客数やバランスシート面でゴールドマンをはるかに上回っている。オンラインの新興企業はあまり規制を受けない。アマゾン・ドット・コムやアルファベット傘下のグーグルは優秀な人材を集められるほか、新たなビジネスにいつでも進出できる余裕がある。

そのためか最近開かれた業界の集まりで、他社は「彼らを軽視することはない」とマーカスについて述べつつ、「だが夜も眠れないほど不安というわけではない」と話す。

「これは新たな領域だ」

金融サービスの中でもリテールバンキング(小口金融)はシンプルな分野だと言えるが、ゴールドマン以上に経験豊かな企業であってもつまずくことがある。また競合他社の貸付損失が増える中で同社は消費者向け融資事業に進出することになる。

収益性を上げるため全社でコストカットが進む中、ゴールドマンは顧客ビジネス部門に5億ドルを投資した。だが仮にマーカスが成功したとしても、その効果は今後数年は微々たるものだ。ゴールドマンでは今後3年間でマーカスの税引き前利益が4億5000万ドルに達すると予測しているが、これは同期間にゴールドマンが全体として得るであろうと予測される税引き前利益のわずか1%にすぎない。

それでも消費者向け融資はゴールドマンのその他の部門よりももうけが大きい。特にトレーディング部門では、リターンを押し上げる大規模な借り入れに依存できなくなったからだ。同社はマーカスの融資の株主資本利益率(ROE)が10%台後半に達すると予測する。ゴールドマン全体の過去3年のROEは9.2%だった。

金融危機で傷ついた評判を回復させるために、ゴールドマンは親しみのこもった表情、少なくとも親しみのある電話応対といったソフトスキルを学ばなければならない。「これは新たな領域だ」と、ソルトレークシティの事業を統括するダリン・クライン氏は話す。米海軍の元パイロットだったクライン氏はウエスタンブーツ姿でオフィスを歩き回り、顧客からの電話に担当者が30秒以内に応対できているか監督する。「ここをうまくやらなければいけないことは分かっている」という。

消費者向け融資の企画が誕生したのは2014年の夏、ニューヨーク州ハンプトンズで週末に開かれた戦略会議でのことだった。場所は当時ゴールドマンのナンバー2で、今はドナルド・トランプ政権入りをしたゲーリー・コーン氏の別荘だったと会議に参加した関係者らは明かす。庭にあるピクニック用テーブルに集まった参加者らは、ゴールドマンがどの分野で成長できるかを話し合った。そしてたどり着いたのが消費者向け融資だった。

ゴールドマンではリテールバンキングが進出するに足らない分野だとしてそれまで無視されていた。だが大手商業銀行とは違い維持費がかかる支店ネットワークや古いシステムに依存していない点に勝機を見いだした。

アップルとの協議も

事情に詳しい関係者によれば、マーカスからはさまざまな新商品が登場する予定だ。まずPOS(販売時点情報管理)クレジットは、店舗やオンラインでの会計時に買い物客に小口のローンを提供するサービスになる。さらに、「iPhone」などアップル製品の購入者向けにローンを提供する計画もあり、アップルと協議が続く。さらにはアマゾンのような大手小売業者にも顧客向けローンを提案していると関係者らは話す。

さらに大胆な一手として、同社は資産運用を管理するためのデジタル・プラットフォームを開発し、年内にも発表するという。このツールはアルゴリズムなどを使い株や債券を極めて低い手数料で売買できるものだ。

ただ、商品を作ることと、顧客を獲得することは別だ。市場調査会社ミンテルによれば、ゴールドマンは2017年にバンク・オブ・アメリカと同程度のダイレクトメールを送付した。また米資産運用大手フィデリティ・インベストメンツなどとも手を組み、顧客にローンを提案していくという。

これら新たな商品を作るため、ゴールドマンは外部の人材を大量に雇った。その多くはこれまで抱えてきたトレーダーや血筋の良い銀行家とはタイプが異なる。マーカスのマーケティング部門トップを務めるダスティン・コーン氏は、食品・飲料大手ペプシコや下着を販売するジョッキー・インターナショナルで働いた経験を持つ。またマーカスのシステムを構築したグレッグ・ベリー氏は電子決済サービス大手ペイパル ・ホールディングスの元幹部だ。オリエンテーションにはスーツを着てくるよう伝えられたベリー氏は、紫色のジャケットと銀色のちょうネクタイ、そしてテニスシューズ姿で現れたという。

ゴールドマンはウォール街のエリート中のエリートを引き付ける金融機関だ。その真の強さは、収益性の高い新しい領域に果敢に挑戦し、成功させる力量にあるのかもしれない。ゴールドマンのマーカスの今後が楽しみである。

以上、Wall Street Journalより要約・引用しました。

https://www.wsj.com/articles/goldman-sachs-adviser-to-the-elite-wants-to-be-your-main-street-banker-1519745369

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