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狙いは水、ハーバードが静かに築くブドウ畑

 

カリフォルニアで土地を買い進め、深い井戸を掘り、大規模なブドウ栽培事業を構築している理由とは?

サブプライムローンの崩壊に端を発する2008年の米国金融危機を描いた映画、「The Big Short」をご覧になった方は、米国の住宅ローンの破綻を見込んで逆張りし、大儲けしたScion Capitalのバリー氏に関する最後のコメントを覚えているだろうか。彼が照準を据えている次の投資商品は、「水」である。それを彷彿とさせる記事を紹介する。

カリフォルニア、シャンドンの牧場で働くスティーブ・シントン氏は、それまで聞いたことのなかった会社が相場以上の価格で近くの農地を購入していると知って困惑した。その会社の名前は「ブローディアエア」。2012年の数カ月に、谷あいの平地を3平方マイル(約780ヘクタール)取得した。シントン氏は牛を育てたりブドウを栽培したりする農場の共同経営者だ。「彼らが払っていた金額に驚いた」と話す。

 ブローディアエアは付近の土地を買い進め、深い井戸を掘り、大量のブドウを生み出せる苗の作付けを始めた。はっきりしていたことは、同社は地下水を利用しやすい土地への出費を惜しまなかったことだ。近くに住む環境エンジニアは「私たちはブローディアエアが誰だか知らなかった。だが資金力があることは知っていた」と話す。

ブローディアエアの後ろにいたのはハーバード大学だった。

保有するブドウ畑の価値は3倍に

 ハーバード大学の寄付金を管理するハーバード・マネジメントはブローディアエアなどの媒体を通じ、セントラルコーストにかなりの規模のブドウ栽培事業を静かに構築していた。この地域では、地球温暖化を受けて水の権利がかつてないほど貴重な資産となっている。ハーバードは土地と合わせ、幾つもの水源の権利を取得していたのだ。

カリフォルニアでは近年干ばつが頻発し、農家は特に大きな打撃を受けてきた。2015年の研究によると、セントラルコーストは過去20年内、訳7年間干ばつ状態を経験した。それ以前の100年からは倍増した計算だ。論文の共同執筆者であるスタンフォード大学のノア・ディフェンボー教授によると、干ばつを受けて帯水層からの採水が急増しているが、その多くは雨期の増水中も元の水量には戻らない。

ハーバードには先見の明があった。390億ドルの基金を管理するハーバード・マネジメントは、保有するブドウ畑の価値が2013年から約3倍に増え、3億0500万ドル(約345億円)に達したとみている。

ブドウ畑への投資に一部の農家や地元民は反発している。ハーバードがいずれ地下水を使い尽くし、水利用の規制に過度の影響を与えるとの懸念からだ。

しかしブローディアエアのシントン氏らはそれほど懸念していない。以前に栽培されていた作物の一部の方が大量の水を必要としていたからだ。「私が子供だった時には、農家はそこでアルファルファやテンサイを育てていた」という。

広報担当者によると、ハーバード・マネジメントは個々の投資については話さない方針だ。ブローディアエアが土地購入を始めた2012年に公表された財務報告書で、ハーバードは天然資源という資産クラスを選好しているとし、「その物的生産物に対する世界経済の需要が今後数十年に増加すると考えている」ためだとしている。

カリフォルニアのブドウ畑では、水の権利は非常に魅力的だ。ブドウは収穫時の重量の約75%が水分だ。カリフォルニアワインは世界から求められているため、ブドウ畑を保有するのは水を収入に変えるようなものだ。

カリフォルニア大学サンタクルーズ校のマデリン・フェアバーン准教授は「水なしでは農業はできない。以上」と述べた。「そのためカリフォルニアの地価は水の権利と密接に関係している」

希少な資源を巡る競争が激化

ハーバードの投資ガイドラインによると、資源に対する地元の権利を尊重することは「今後数十年」ますます重要になる。「世界人口の増加や気候変動、食料消費を背景に、耕作可能地や水といった希少な資源を巡る競争が激化するためだ」。

カリフォルニア州は14年、観測史上で最も暖かい年を経験した。地下水の保全を求めるジェリー・ブラウン知事は枯渇を防ぐための包括的な法案に署名した。この法律は、ハーバードのブドウ畑の下にもある「非常に重要な」地下水盆20カ所を特定し、20年までに地下水の減少を抑える計画を策定する必要があるとした。

 計画策定に協力するため、シャンドンの大地主は17年、5人の委員が管理する独自の水域を設けることを投票で決めた。ブローディアエアのタレンタイン氏も委員に選ばれ、ハーバードが計画策定に影響を及ぼすことになった。

夫と共に小さなブドウ畑とオリーブ園を経営するロベルタ・ジャッフェ氏は、温暖化で既に水が希少かつ貴重になっていると考えている。ハーバードがカリフォルニア州南部の諸都市に水を送るかもしれないと思うと不安だ。同州には水供給会社カディスという前例があるという。同社は年間163億ガロン(約617億リットル)を州南部の水道会社に売却するためにモハーベ砂漠の下にパイプラインを敷設する許可を郡と連邦政府から得ている。

ハーバードはクヤマバレーのブドウ畑に大型の貯水池(容量1600万ガロン)を3つ建設する許可を申請し、郡当局者によるヒアリングを待っている。ジャッフェ氏らは建設に反対している。

地元の計画策定委員会がこの秋に開催した会合で、ブローディアエアのコンサルタントは同社に水資源を開発する権利があると述べた。「農家には農業をする権利があり、所有地の下の水を利用することができる」としている。

大きな投資資金がそれまで地元農民の所有していた土地を買いはじめている。水という資源の確保を狙って。地元住民と大手投資機関の対立が、様々なところでくすぶり始めている。そしてそれは長期的には我々の生活に欠かせない水資源の利権に大きな影響を与えると思われる。

以上、Wall Street Journalより要約・引用しました。

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