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AI半導体のエヌビディア、テクノロジー覇権を争う米中双方に欠かせない製品を供給

 

テクノロジーの覇権争いで米国と中国が火花を散らすなか、シリコンバレーのある半導体企業は双方に「武器」を供給している。

人工知能(AI)のカギを握る画像処理半導体(GPU)を製造するエヌビディア(カリフォルニア州サンタクララ)は、ウーバー・テクノロジーズには自動運転車向け、マイクロソフトにはクラウドサービス向けにそれぞれAI用半導体を供給している。

売り上げは中国向けの方が多い。巨大ハイテク企業のアリババグループや百度(バイドゥ)をはじめ、顔認識AIなど国内の警察・監視技術を開発する各企業、中国の軍事研究者と協力する大学の研究室なども、エヌビディアの製品を購入している。

米中が「新冷戦」に向かいつつある今、両陣営との関係維持をもくろむエヌビディアの姿勢は、綱渡りの様相を帯びつつある。インテルやクアルコムといった他の米半導体大手も中国市場に進出しており、それぞれ有力なハイテク企業やAI新興企業を取引先に持っている。だがAI用半導体市場で圧倒的な優位性を持つエヌビディアは、シリコンバレーが中国の技術向上にいかに貢献しているかを示す最も顕著な例だといえる。

ウィルバー・ロス商務長官と一部の米議会議員は、AIで世界的覇権を狙う中国に米国の技術が利用されていることへの懸念を表明してきた。マルコ・ルビオ上院議員(共和、フロリダ州)ら17人の連邦議員は8月下旬、マイク・ポンペオ国務長官とスティーブン・ムニューシン財務長官に宛てた書簡を送り、エヌビディアがパートナー企業だとする取引先2社に対し、経済制裁を科すよう求めた。その2社とは、中国の新疆ウイグル自治区で使われる監視カメラを製造している杭州海康威視数字技術(ハイクビジョン)と浙江大華技術だ。同自治区ではイスラム系少数民族のウイグル族への当局による人権侵害が国際的な批判を浴びている。また別のパートナー企業であるAIベンチャーの商湯科技(センスタイム)は、同自治区を拠点とする立昂技術(レオン・テクノロジー)と公安に関する合弁企業を運営している。

エヌビディアは2016年に北京で開かれたイベントで、ハイクビジョンが同社製品を使い、カメラにAI機能を搭載したことをアピールした。エヌビディアの中国語サイトには、上海の警察研究機関が同社のGPUを使い、監視データの選別に要する時間を数カ月から数日に短縮したことが紹介されている。

ルビオ議員は「米半導体メーカーが中国政府によるハイテク警察国家の構築を手助けしている可能性がある。これは大いに憂慮すべきだ」と述べた。

エヌビディアの広報担当者は、警察機関の研究は広く入手できる動画データに基づいていると述べた。ルビオ議員の発言についてはコメントを控える一方、同社製品の用途を全て把握することはできないとし、米政府の「禁輸措置や制裁の対象となる企業」に関するガイダンスに従っており、「当社はその要件を完全に順守している」と述べた。

見え隠れする不安材料

エヌビディアにとって課題は中国だけではない。10月初めから11月16日までに同社の株価は43%下落。貿易摩擦の高まりを背景にハイテク銘柄が幅広く売られたのが一因だ。また先週発表された8-10月期(第3四半期)決算では売上高が市場予想を下回った。仮想通貨のマイニング需要低下が響いたとみられる。

事情に詳しい関係者によると、エヌビディアの幹部は、米中貿易紛争の影響で中国市場へのアクセスが制限されるのかを注視している。また両国の関係悪化により、中国政府が半導体などの主要ハードウエアで米企業への依存を減らし、国内企業を育成しようとする動きに拍車がかかることを懸念している。

「中国のエコシステムや経済は当社の技術に依存している」。エヌビディアのジェンスン・フアン最高経営責任者(CEO)は3月にシリコンバレーで開かれたイベントで「我々のGPUは実際になくてはならない重要な技術であり、世界は引き続き、協調的な取引やオープンなビジネス関係を維持するだろう」と述べた。

今のところエヌビディアの半導体は、急成長する中国ハイテク企業にとって不可欠なものだ。例えば、AI新興企業として世界有数の企業価値を誇るセンスタイムは、中国や日本、シンガポールに設置したサーバーに1万4000個のエヌビディア製GPUを使っているという。

米国全体では昨年、584億ドル相当の半導体を輸出しており、中国はメキシコに次ぐ第2位の輸出先だった(米国際通商局調べ)。中国政府が発動した関税には半導体が含まれておらず、いかに重要な位置付けとされているかがうかがえる。

スパコンと共に成長

エヌビディアは1993年設立。共同創業者で現CEOのフアン氏は台湾生まれの米オレゴン州育ちだ。当初はゲーム用チップを開発していたが、後に一人称シューティングゲームなど人気ゲームの高精細グラフィックスに使われるGPUを生産するようになった。ゲームは今も同社にとって最大の市場だ。

10年ほど前からAIの技術開発に同社のGPUが使われ始めた。この製品は、コンピューターがさまざまな判断を下す、つまり人間によく似た方法で「考える」ために膨大なデータを処理する上で、非常に効率的なことが分かってきた。

エヌビディアのGPUは「コア」と呼ばれる単純な計算ユニットを大量に使い、並列に作業するため、データ処理速度を大幅に高めることが可能となる。同社は中国に約100人のスタッフからなるGPU販売チームを置き、AIの研究者や技術者が「CUDA」と呼ばれる同社のGPU向けプログラミング環境を使いこなすための支援体制を整えている。

エヌビディアは米国市場と同様、中国でもプログラミング競技会を主催したり、大学でゲームイベントを開催したりしてユーザーとの強力な関係を構築した。2011年には中国の高等教育カリキュラムにCUDAのプログラミングを組み込むよう当局を説得。現在は中国の多くの大学がCUDAを教えている。

中国は2010年、世界最速のスーパーコンピューター「天河一号A」を発表。これにはエヌビディアのGPUを7168個搭載していた。従来のプロセッサーであれば5万個以上が必要となり、2倍の床面積がなければ同じ速度を出せないと同社は説明した。

このプロジェクトを率いた劉光明氏は「GPUがなければこのパフォーマンスと効率性は実現できなかった」と語った。同氏は後日、中国・天津にある国立スーパーコンピューターセンターにエヌビディアのフアン氏を案内した。

一方、世界最速スパコンの座の奪還を目指す米エネルギー省傘下のオークリッジ国立研究所(テネシー州)は、既存スパコンの性能を向上させるため、エヌビディアを頼ることにした。

「ジェンスン(・フアン氏)に連絡すると、彼は飛行機に飛び乗った」。同研究所のトーマス・ザカリア所長はこう振り返る。同氏のチームはスピードと電力消費の壁にぶつかっていたが、エヌビディアのGPUがその壁を乗り越えるのに役立った。その結果、誕生したのが「タイタン」だ。GPUを1万8000個搭載したタイタンは2012年、天河一号Aを抜いて世界最速となった。

だが2015年、中国のスパコン事業におけるエヌビディアの役目は終わった。米商務省が国内半導体メーカーに対し、中国の複数のスパコン研究所との取引を禁じたためだ。「核爆発物」に使われる恐れがあるとの理由だった。

中国の技術者は結局、効率性の低い国産チップに切り替え、はるかに大量の数を詰め込むことで、再び最速記録を作った。エヌビディアの広報担当者は、中国製スパコンが「オープンな科学研究」に使用されると信じていると語った。

今年6月、オークリッジ研究所は再び新記録を打ち立て、首位に返り咲いた。このスパコンには2万7000個を超えるエヌビディア製GPUが使われている。

他にもエヌビディアの技術に依存している中国の重要なプロジェクトがある。中国科学院大学の研究部門の1つ、高性能データマイニング研究所が開発した衛星通信技術のアルゴリズムには、エヌビディアのGPU製品「テスラ」とCUDAシステムが採用されている。また中国政府の監視ネットワークの中核をなす顔認識システムにも、エヌビディアのGPUが使われている。センスタイムの関係者は、金融機関や中国の警察に販売しているソフトウエアやハードウエア、その他のサービスを構築するのにエヌビディアのGPUが必要だと話す。

中国企業は依然、半導体技術では米企業に大きく出遅れている。中国政府は昨年、技術革命を呼びかけると共に、目標の1つにエヌビディアの「テスラM40」の20倍速いGPU製品を生み出すことを掲げた。また将来有望な半導体メーカーに数百億ドルをつぎ込んでいる。アリババやバイドゥ、華為技術(ファーウェイ)のほか、多くの新興企業がAI用半導体の開発に取り組んでいる。

中国政府は今のところ、競争よりも協力を強調している。習近平国家主席は9月に上海で開催された世界的なAI会議に寄せた書簡の中で、中国は進んでAIの発展や安全確保のために他国と協力し、成果を共有していくと述べた。

その例となるのが2015年に設立された図森未来(トゥーシンプル)だ。同社は米中両国に拠点を置く非公開企業で、自動運転トラックの開発を手掛けている。エヌビディアがパートナー関係にあるとする370社余りの自動運転関連企業に、バイドゥやウーバー、独フォルクスワーゲン(VW)とともに名を連ねる。

トゥーシンプルのトラックはカメラやレーダー、レーザー光によるセンシング技術を搭載し、関連機器はコンピューター内に4個あるエヌビディア製GPUに接続されている。このシステムは周囲の状況を「見て」、CUDAのプログラミングに基づいて瞬時に判断を下す。トゥーシンプルの共同創業者で最高技術責任者(CTO)の侯曉迪氏はこう説明した。

侯氏によると、同社のサプライチェーンで唯一、取り換えの利かないものがある。それはエヌビディアだ。

以上、Wall Street Journalより要約・引用しました。

https://www.wsj.com/articles/a-silicon-valley-tech-leader-walks-a-high-wire-between-the-u-s-and-china-1542650707?mod=searchresults&page=1&pos=5

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