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米中経済に対するポールソン元財務長官の警告

 

ヘンリー・ポールソン氏はゴールドマン・サックス・グループ時代にも、米財務長官としても、政界の長老としても、米国の対中関与政策を強力に支持し、実現させてきた。その点で彼をしのぐ人はほとんどいない。

 そのポールソン氏が、米国の対中関与は失敗しつつあり、米中間に間もなく「経済的な鉄のカーテン」が下ろされるかもしれないとの結論に達したということは、2大経済大国の関係が非常に危険な状態にあることを示している。

ポールソン氏は11月7日、シンガポールで講演し、中国の振る舞いが米国内で仲間を失う結果を招き、米国民を反中で結束させたと訴えた。米国を厳しく批判することはなかったが、米国は中国にも同盟国にも非現実的な期待をかけているとの見解を示した。米中のいずれも方針転換しなければ「米中関係に長い冬が訪れ」「とてつもなく大きなシステミックリスク」が生じると述べた。

ポールソン氏は財務長官として2008年の金融危機に対応したことで知られるが、米中経済関係でも同じくらい重要な役割を果たしてきたと言える。ポールソン氏が最初に中国を訪問したのは1990年代初めだ。ゴールドマンとして投資銀行事業に乗り出すためで、やがて中国の主要国有企業数社の再建と株式上場を支援した。2006年にはジョージ・W・ブッシュ政権の財務長官に就任し、米中高官が2国間関係に対処するための経済戦略対話を開始した。

この間、ポールソン氏は中国の指導者らと関係を築いた。習近平国家主席の補佐役である副主席を務める王岐山氏とは今も友人関係にある。にもかかわらずポールソン氏は中国の現在の方向性を容赦なく批判した。世界貿易機関(WTO)加盟から17年がたった今も、中国は合弁会社に関する規制や所有制限、技術標準、補助金、認可手続き、外資による競争を阻止する規則を利用し、「あまりにも多くの分野で海外との競争に門戸を閉ざしている」と指摘した。「こうした現状はとても受け入れられない」。

中国で改革熱がピークを迎えたのは当時の江沢民国家主席の下でWTOに加盟した直後のことだ。後任の胡錦涛主席時代になると熱気は冷めていった。2013年に習氏が国家主席に就任した時、市場と民間企業が中国の発展をけん引するとの習氏の言葉をポールソン氏は信じたが、実際にはそうはなっていない。ポールソン氏は共産党が支配力を強めているせいだと考えている。

シンガポールで開かれたブルームバーグ・ニューエコノミー・フォーラムでの講演では、共産党内での権力集中と依然として続く外国企業への差別によって、米国の指導者は政治的立場の違いを超え、中国は「米国の犠牲によって」台頭した戦略的ライバルとの見方で一致していると指摘した。ハイテク製品の貿易で国家安全保障上の懸念が刺激され、その結果、地政学的な競争関係は緩和するどころか激しくなっていると語った。

孤立するのは米国

ポールソン氏によると、その一方で中国は、財界など米国きっての中国応援団を遠ざけてしまった。中国との対立を支持する人の中に、中国を最もよく知り、中国で働き、中国でビジネスをして、中国で金を稼ぎ、中国との生産的な関係を支持してきた人たちが含まれているのである。

ドナルド・トランプ大統領は対中強硬派に囲まれている。彼らにとって、ポールソン氏が自分たちの不満に同調することは間違いなく皮肉だろう。ポールソン氏が支持した関与政策のせいで中国が経済的、戦略的な罪を犯したというのが対中強硬派の考えだからだ。

それでもポールソン氏は、ゴールドマン時代に部下だったスティーブン・ムニューシン財務長官らトランプ政権幹部と中国政府関係者との橋渡し役を務めている。シンガポールでの講演でポールソン氏は中国や、中国の差別的な行動を変えることができなかったWTOへのトランプ氏の強硬姿勢を支持した。しかし米中両国は切り離す(デカップル)必要があるという、対中強硬派の中で広がりつつある考えは単純で非常に危険だと指摘した。

「米国と中国はそもそもカップルではない」とポールソン氏は言う。「プレーヤーは2国だけではない。アジア各国をはじめとした他のプレーヤーが追従するのを嫌がったらどうするのか」特にアジアでは、中国のように急成長を遂げる経済大国との関係を絶つ国はないとポールソン氏は指摘する。「地理的な位置関係、経済的な重要性、日々直面する戦略的現実」がその理由だという。

言い換えれば、多くの国は選択を迫られれば中国を選び、米国は孤立する、というのがポールソン氏の主張だ。

中国の政治システムに口出しするな

米政府関係者は中国とのイデオロギーの違いを米国の存亡にかかわる脅威とか、協力を阻害するものと受け止めるべきではないとポールソン氏は言う。米中ともに、環境・経済・戦略に関わる国際的な問題に取り組むにはまともに機能する世界的な組織とルールが必要だ。

「対中関与政策に取り組んだわれわれの中に、中国がジェファソン流の民主主義国家になるとか欧米のリベラルな国際秩序を支持するようになると考える人間がいた、という修正主義的な錯覚がある」。ポールソン氏はインタビューでこう語った。「われわれはそのようなことを考えたことは一度もない。共産党が重要かつ主要な役割を果たすことは最初から承知していた」

問題は、中国が政治的に自由化しないかぎり衝突は避けられないとの見方が米国内にあることだという。「米国が中国の政治システムに口を出せば行き詰まる。中国の政治システムを変えるのはわれわれではないからだ」

世界GDP第1位と2位の米国と中国が経済的・政治的に対立すれば、それが世界に与える影響は計り知れない。中国を良く知り、中国でビジネスをし、前政権で対中政策の中心になっていたポールソン氏の警鐘は重い。

以上、Wall Street Journalより要約・引用しました。

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