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アマゾンとグーグル、本格的銀行業に進出しないわけ

 

大手IT(情報技術)企業とメジャーな銀行が、特に決済サービスの分野などでお互いを警戒しながら間合いを取り続けている。それでも今のところ両者はライバルというよりも、「フレネミー」(友人のふりをした敵)といった関係だ。

その理由は、急成長を見せるクラウドコンピューティング分野で、銀行がIT企業の大手取引先となる可能性が強まっているからだ。米アマゾン・ドット・コム、アルファベット傘下のグーグル、そして米 マイクロソフト などはそれを理由に、銀行と直接競合することで不和を生じさせないよう慎重になっている。

 銀行側は他の一部のクラウドプロバイダーがモバイル決済機能に投資しているのを目にし、一般消費者の銀行離れが起きるのではないかと不安に思っているようだ。マイクロソフトのワールドワイド・コマーシャル・ビジネスを担当するエグゼクティブ バイスプレジデント、ジャドソン・アルソフ氏は、「銀行業の顧客に対しては、マイクロソフトとしては彼らの領域に立ち入るのではなく、彼らを支える機会があるという強い意識で臨んでいる」と話す。

アナリストの中には、金融面でのアドバイスや送金のためにモバイル端末を利用する消費者が増えていることもあり、銀行業務の多くは従来型の銀行ではなくIT企業が代わりに担っていくだろうと予測する声がある。

だが今起こりつつある状況は、そこまで単純なものではない。米金融大手JPモルガン・チェースやスイスの同業UBSグループなど最大手の銀行ともなると、新たな技術の開発に自ら数十億ドルを投資している。また最近は、演算能力やデータ保管をウェブ上で提供するパブリック(共有)クラウド向けプラットフォームを新たに利用し始めている。

高速で複雑な共有型コンピューティングサービスを提供する企業の中には、アマゾンの「アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)」やアルファベットの「グーグルクラウド」、そしてマイクロソフトの「アジュール(Azure)」がある。

銀行は長年にわたり、扱いに注意が必要な情報や業務プロセスをクラウドへ移行することに抵抗してきた。自社の所有あるいはリースではないデータセンターには、セキュリティー上の懸念があるとしていた。複数の金融企業は「プライベートクラウド」などを含む内部のデータプラットフォームの開発に、数十億ドルを投資してきた。

だが最近は自主規制機関である米金融取引業規制機構(FINRA)がAWSのサービスを利用し始めるなど、規制関連機関がデータの保管や報告にクラウドを採用し、潮流は変わりつつある。そしてより多くの銀行が後を追う動きを見せる。

銀行側は従来の中央処理装置からクラウドへと移行することで、膨大な演算能力を必要とする人工知能(AI)などの新たな技術を容易に使えることになる。これによって、より優れたモバイル製品や取引用のツールを生み出すことも可能だ。

 

銀行のクラウド向け支出は飛躍的に増えると見られている。市場調査会社IDCがまとめた報告は、銀行によるパブリッククラウドのインフラ整備やデータサービス向けの支出が、2021年までに120億ドル(約1兆3120億円)を突破すると予測。昨年は40億ドルだった。

IT企業にしても、リテールバンキング(小口金融)といった事業よりもクラウドビジネスがもたらすチャンスの方が大きい。証券会社ジェフリーズは、クラウド業界全体の売上高は前年比約60%増の勢いで拡大し続いているとする。一方で当座預金口座やクレジットカードなどを含むリテールバンキング業界の売上高の伸び率は、ほとんどの大手銀行でその数分の1だ。また、IT企業が銀行業や金融商品を本格的に取り扱えば、多くのコストがかかり、大幅な規制の対象にもなる。

エンジニアリングサービス企業GFTグループのデジタル戦略部門トップ、アミ・グリュワル氏は、「IT企業は銀行業に進出するよりも、インフラを提供し続けた方がよっぽど定期的に安定した売り上げを得ることができる」と話す。GFTグループは銀行に加えてアマゾンやグーグルといったIT企業と取引がある。

米金融大手キャピタル・ワン・ファイナンシャルなどいくつかの銀行は、すでにクラウド企業の大口顧客だ。キャピタル・ワンでは2013年からアマゾンと手を組み、2016年からはAWSを主要クラウドプロバイダーに選んだ。合意内容に詳しい関係者によれば、同行はAWSのサービスに対し、年間で少なくとも1億5000万ドルを支払う取り決めが契約に含まれている。キャピタル・ワンの広報担当者はこの件についてコメントを控えた。

大手IT企業は銀行業に手を出し続けているものの、それらはほぼすべてパートナー関係にある銀行を通しているのが現状だ。例えばアマゾン、グーグル、そしてマイクロソフトはデジタル・ウォレットを提供しているが、これらは銀行が発行するクレジットカードやデビットカードと結び付けて使われる。米金融大手シティグループでは利用者に対し、アマゾンで商品を購入する際にクレジットカードのポイントで支払えるサービスを提供している。

以上、Wall Street Journalより要約・引用しました。

https://www.wsj.com/articles/why-amazon-and-google-havent-attacked-banks-1524758594?mod=searchresults&page=1&pos=1

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