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AIでポートフォリオ運用、次の段階は?

 

人工知能の実用化はコスト削減から

人工知能(AI)は映画の世界から抜け出して現実世界へ浸透しており、投資ポートフォリオにも影響を及ぼしつつある。マネーマネジャーの関心は、新たな投資手法の普及ではなくAIに移っている。

ブラックロック(BLK)、バンガード、フィデリティ、T.ロウ・プライス(TROW)などは、情報関連の最高の人材を集めるために、主要都市における技術センター構築に時間とお金を費やしてきている。

 AIとは、まず機械がデータを学習することから始まる。深層学習(ディープラーニング)は機械学習の1分野で、過去最大のブレークスルーが起こりつつある。例えば自然言語処理は、言葉を理解し、言葉で反応できる。コンピュータビジョンでは画像イメージを見て認識可能だ。この種のAIは、自動運転車やがんを特定できる機械などに使われており、金融データ分析の補完も可能だ。

言うまでもなくAIにも限界はある。自動運転車は事故を起こすし、 IBM (IBM)のワトソンはチェスの世界チャンピオンに勝てるが人々がチェスをする理由を説明できない。『2001年宇宙の旅』のHALは乗員を殺そうとした。AIが、例えば金融機関の個人向け助言の質を全利用者に対して均一化するような日が、将来のいつかの時点で恐らく訪れるかもしれないが、現時点では多くの金融機関は自社のコスト削減のためにAIを利用することに焦点を合わせている。

ある大手銀行が数年前にマサチューセッツ工科大学のアンドリュー・ロー教授に接触した時、その銀行はカード債務未払いによって1日当たり5000万ドルの損失を被っており、全カード保有者のカード与信枠の一律50%引き下げを考えていた。ロー教授のチームが各種データを収集して機械学習モデルへインプットした結果、同モデルは、過去3カ月間に給与振り込みが止まった人々は、返済の遅れや債務不履行の可能性が5倍に及ぶと結論付けた。失業すれば支払いが困難になるとは誰でも想定できるが、機械は状況が最も困難な人々を特定でき、その銀行では顧客のうち4%の与信枠を解消し、96%の健全顧客の与信枠は引き下げずに、与信リスクを引き下げることができた。

ファンドでは、ヘッジファンド会社のマン・グループがAIの先駆者だ。同社でクオンツ投資を担当するAHL部門では、取引の予想価格と実際の価格の差を縮小するためにAIを利用している。通常は、費用が最も少なくて済み、市場への影響が最も少なくなるようなアルゴリズムを人が決定する。しかし、マン・グループの調査チームは、適切なアルゴリズムを選択するにはアルゴリズムが最も適していると判断した。

他の利用法

AIにおける最も興味深い発展の一つはポートフォリオ運用だ。機械は既に、パッシブ投資のトレンドを乗っ取っている。3兆ドルの上場投資信託(ETF)業界は近代的なコンピューティングがなければ不可能だったし、最新のETFはAIをさらに利用する公算が大きい。

パッシブ投資はあらかじめ決められた特定の規則に従って売り買いする。最も知られているS&P500指数ファンドは、投資対象を時価総額の基準だけで調整する。しかし、より複雑な規則に従うファンドも設定されている。これらのファンドは、規則に従うという意味ではパッシブファンドだが、規則が非常に複雑になっているために実質的にはアクティブファンドである。

機械学習が自然言語処理と組み合わされれば、決算発表のコンファレンスコールの内容から、特定の最高経営責任者(CEO)がどれほど強気かをポートフォリオマネジャーに教えられる。Twitterのツイートを取り込んで、消費者の嗜好(しこう)やトレンドをリアルタイムで分析できる。フィデリティはソーシャルメディアをAIで分析して、 アパレルのアンダー・アーマー (UAA)の相対的な人気度や、ファストフードチェーンの チポトレ・メキシカン・グリル (CMG)のクエソ(タコスのチーズディップ)の展開に対する消費者の印象を判断している。

次の段階として、AIが人の行動、例えばポートフォリオマネジャーが上場企業の経営陣とのミーティングや決算決算発表でどのような証券取引するかを評価し、予想するようになるだろう。

マン・グループのAHLは、伝統的なクオンツのアプローチに対するAIの利用例を提供している。同社は機械学習を利用して、モメンタムの特性を再学習しようとしている。モメンタム戦略は、株価が急速に上下する際には特に困難になる。大半のモメンタムETFは、特に乱高下する市場で表面化するシグナルを取り込めず、それに対応できない。マン・グループのAIは、市場の乱高下が特に激しい時に方向性を逆転させるようなシグナルをあらわにするため、相場反転を取り込むためにモデルは迅速に反転する。

ブラックロックは、iシェアーズ・イボルブドUSテクノロジー(IETC)やiシェアーズ・イボルブドUSコンシューマー・ステープルズ(IECS)を含む7本のセクター別ETFを新たに設定した。同社は、自然言語処理を利用して届け出書類の中から事業を説明する特定の言葉や文章をふるいにかける。そうすることで、どの銘柄をどのETFに加えるべきなのか、そしてそのウエートについて決定するが、最終的な結果は伝統的なセクター分類と類似している。

モーニングスター もAIテクノロジーを採用している。同社は2月に、新たな定量的格付けシステムを開始した。この機械学習モデルはファンドの見通しを分析する定性的な人間のアナリストの格付けをまねることが目的だ。手法に関するレポートによると、試験した学習モデルは、ネガティブな格付けで55%、ポジティブな格付けで78%の場合において既存のアナリスト格付けと一致した。同社はこの水準に満足していると述べるが、アドバイザーがこの評価に同意するか否かは別問題だ。

• 人々の行動予測

市場は複雑だ。ロー教授は、「市場は不変ではなく生物学的なシステムで、この生態学が1年間または今後数十年でどのように進化するかを説明する法則はわれわれにはない。AIには、ウォーレン・バフェット氏を成功させたような、決断の背景となるロジックが欠けている」と語る。

一方で、一部の金融機関は、AIが行動特性を正確に解明でき、金融や市場のイベントに対する個人の反応を予想できることに賭けている。フィデリティのAIチームは、例えば一般の人々の大学の学費や養育費、住む場所のデータにアクセスし、共通の行動を持つ家族を特定し、彼らの行動パターンをコンピュータに機械学習させる。次の段階として、顧客が家計に関していっそう安心できるような手段を学び、顧客の経済的将来設計を予想できるようなアプリを開発する。顧客の抱える経済的問題や選択肢には、多くの要因が絡んでおり、参考とすべき指標もないために困難な作業だ。だが、フィデリティはAIを使って解決策提供アプリを作ろうとしている。

一方でロー教授は、彼のチームが「異常な精神状態ファクター」と呼ぶところの、投資家の行動評価を開発するために、ある大手証券会社と協力しているが、投資家がとるべき行動を示すアルゴリズムは多いが、投資家の実際の行動を表すアルゴリズムはない、と語る。同教授は、12年間におよぶ数千件の匿名化された口座のデータを使って行動を測定しており、市場の調整または下落局面における異常な精神状態のリスクが高い投資家の、人口動態的な特徴を構築した。このようなモデルは、2~3年後に商業的に利用可能になる可能性がある。

AI発展のための障害もある。現在個人情報の問題が全面に押し出されている中、機械学習の為に必要な個人データの利用がどこまで法的に許容されるかという問題がある。

障害や問題はあるが、AI利用の発展が、例えばサブプライムローンのような虚偽性の高い証券にいち早く警鐘を鳴らし、2008年に起きた金融危機の再来を防ぐ手段となるならば、大歓迎である。

以上、バロンズより要約・引用しました。

https://www.barrons.com/articles/ai-coming-to-a-portfolio-near-you-1523066839

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