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車を買うなら自販機で、中国の新たな市場破壊

 

アリババ、営業マン排除で自動車小売り市場に革命起こせるか

エリック・チョウさん(38才)は米フォード・モーターの小型スポーツタイプ多目的車(SUV)「クーガ」の購入を検討している。そこで先週、3日間の試乗をするために「自動販売機」で車を引き取った。

 チョウさんは販売代理店を一度も訪れてもいなければ、営業担当者と話もしていない。試乗はネットで予約し、サービスセンターを訪れて担当者に顔認証技術で自分の身元を確認してもらった。すると予約したSUVが8階建ての「自販機」から運ばれてきた。自販機とは基本的に自動化された立体駐車場のことだ。

「こっちの方が従来の代理店よりもはるかに効率が良くて便利だ」とチョウさんは話す。

これは、中国の アリババ・グループ ・ホールディングが今年、国内数カ所でオープンを計画している自動車の自動販売センターの第1号だ。同社はネット通販での成功を実店舗の世界にも生かそうとしており、この取り組みはその一環。

アリババは今回の実験に中国での成功を賭けている。中国では消費者がEコマース経済を熱心に受け入れており、チョウさんは洋服や家電製品のほか、自宅のリフォームに必要な建材まで従来の店に行かずに購入している。

「自動車の自販機」というコンセプトは米国でも既に試されているが、あまり成功していない。アリゾナ州フェニックスの中古車ディーラー、カーバナはそうした仕組みを2013年から運営している。顧客は車探しや購入、ローン手続き、下取りをネットで済ませ、車が満載された巨大な自販機から自分の車を引き取ることができる。

しかし、こうしたビジネスモデルは米国では広がっていない。米国の顧客はほとんどが営業担当者と直接会って交渉し、スマートフォンと車載ブルートゥースの接続などの作業を手伝ってもらうことを好むためだ。

ミレニアム世代にうってつけ

中国の自動車小売り環境は異なり、「破壊」の機は熟していると専門家らは指摘する。

フォードのアジア太平洋地区マーケティング担当副社長のディーン・ストーンリー氏によると、中国の消費者、特に車を初めて購入する顧客は新しいコンセプトを試すことにためらいが少ないという。フォードは中国では国内メーカーの人気の高まりにあおられ、ここ数カ月間に販売台数が急減している。車の購入にあたってネットで調べる人が増える中、同社では現在、顧客を取り込む新たな手法を模索しているとストーンリー氏は話す。

コンサルティング会社ATカーニーの消費者・小売り部門のプリンシパル、ジェシカ・ウルフ氏は「自動車自販機は『摩擦のない商取引』における究極の概念だ。つまり、ほしくないものを買わせようとする営業担当者に対応したり、価格交渉をしたりする必要がない」と説明。「自分で考え、調査し、準備ができたときにスマホで購入する。これこそミレニアル世代が望んでいる取引のやり方だ」と指摘する。

 自動販売センターでは、担当者が車の基本的な特徴を説明したり、質問に答えたりしてくれる。フォードによると、車ごとに連絡できる地元の代理店があり、顧客は質問や問題がある場合はそこを訪れることもできる。

アリババはEコマースの原理をその他の実店舗の世界にも持ち込もうと試行錯誤している。米アマゾン・ドット・コムが無人スーパーマーケットを試しているように、アリババもショッピングモールやスーパーマーケットの株式を取得し、その業務をデジタル化することで中核のネット通販事業以外にも成長源を求めようとしている。また、Eコマースで蓄積した膨大なデータを活用して、実世界で消費者の買い物の仕方を変える狙いもある。

アリババはモールで拡張現実(AR)技術を搭載した鏡や自販機を試験的に導入し、顧客がさまざまな色の口紅を「仮想現実上で」試し、アリババのオンラインプラットフォームを通じてその場で購入できるようにしている。

中国のネット通販大手、京東商城( JD.com )も、顔認証技術で決済が可能な無人コンビニチェーンで実店舗市場に進出している。

アリババの他のサービスと連動

アリババが先週開始した自動車の自動販売プログラムでは、顧客は同社の通販サイト「天猫(Tモール)」で試乗を予約する。試乗料は、アリババ傘下のアント・フィナンシャル・サービシズ・グループが提供している信用スコア評価システム「芝麻信用(セサミ・クレジット)」で高得点を得ている人は無料になる。それ以外の人は、フォードのセダンであれば99元(約1700円)、スポーツカー「マスタング」などフォードのその他の車種であれば198元を支払う必要がある。

アリババは現在、フォード車のみを提供しているが、Tモールの自動車部門マーケティングディレクター、ルー・フアン氏によると、在庫拡大に向けて他の国内外のメーカーと協議中だという。

広東省広州市の自動販売センターの営業初日は盛況だった。ストーンリー氏によると、最初の2日間で450件の試乗申し込みがあった。フォードはこの新手法が既に販売につながったかどうかについて言及しなかった。

調査会社 IHSマークイット の自動車市場コンサルタント、ジェームズ・チャオ氏(上海在勤)は、しつこい売り込みを予期して代理店に入る際に身構えてしまうことの多い購入検討者にとっては、自販機は不安軽減につながると指摘する。

しかし、自動車メーカーは、この手法に1つ難点があるという。営業担当者がいないため、試乗を実際の販売につなげたり、その過程で顧客のフィードバックに対応したりするのが難しい場合があることだ。

「長い試乗の際に隣に座り、顧客のフィードバックを聞いたり、異論に応じて説得を試みたりする人がいない」とチャオ氏は指摘する。「自動車の小売りプロセスが過去30年ずっと変わらないのも、これが理由の1つだ」

とにかく、今までは考えられなかったような業種まで無人化・自動化の対象となり、真剣に新しいビジネスモデルを試行錯誤している企業があるのは事実だ。中国だけでなく、日本も高齢化で労働力不足となるのは避けられない。潜在需要は十分にある。

以上、Wall Street Journalより要約・引用しました。
https://www.wsj.com/articles/to-buy-a-car-in-china-hit-the-vending-machine-1522929642?mod=searchresults&page=1&pos=2

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