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トランプと米IT業界は相容れるか

 

donald-trump-1547274_960_72011月8日の米大統領選を固唾を飲んで見守った人も多いであろう。結果は大半のメディアや政治解説者の予測に反した。2017年にトランプ氏が大統領に就任することで生まれる新たな影響を読み切れている人はまだいないであろう。業界ごとに今までと異なる方向性にトレンドがシフトする可能性がある。ここではIT業界への影響について触れてみたい。

オバマ大統領とシリコンバレーは緊密であった。有能な人材を国籍関係なく受入れ、アメリカの頭脳と文化を体現することでは先頭を行く同業界はオバマ政権及びクリントン候補が後押しするリベラル左派の理念そのものであった。従って同業界でトランプ氏を支持した人はほぼ皆無であろう。今回の選挙結果はシリコンバレーにとっては全く相いれない考えが米国において力を増している印でもある。

世界はかつてないほど急速に変化している。雇用、グローバル化、移民など、トランプ氏が選挙で主に訴えた問題の多くは、技術的変化に根差すところが大きい。そしてトランプ氏を支持した人々は、技術の成果やそれを構築した人々とはどちらかというと衝突する方向にあるように見える。

配車サービス大手ウーバー・テクノロジーズその他の企業が自動運転トラックをテストしているが、これは米国に350万人いるトラック運転手にとっては都合の悪い兆しだ。トラック運転手の給料は大学を出ていなくても就ける職業の中では高い部類に入る。

IT業界は移民を擁護している。外国生まれの幹部も多い。同業界はまた自由貿易を支持している。業界では昨年の売上高の58%は米国外で稼いでいる。これは米国の業界の海外売上高比率としてはエネルギー業界に次いで高い(CFRAリサーチ調べ)。また、米IT企業が販売する小型電子機器の大半は国外の労働者が生産している。

トランプ氏が主に味方につけたのは、閉鎖されたか閉鎖間近の工場で働く(働いていた)労働者達だ。トランプ氏はTPP交渉を中止し、保護主義をちらつかせ、移民を締め出すことによってこれら工場労働者を守るという。実際問題、工場の自動化・無人化が進んだことから、米国に工場を戻せば雇用が大幅に増えることを示す根拠はほとんどない。米国人が作るモノの価値は年々増加しているが、それらモノを作る米国人の割合は低下し続けている。製造業界の労働者が全労働者に占める割合は8.7%と、1950年代の3割から大きく低下した。

多くの米国企業が国外工場に生産を移転しているが、その移転先の工場でも急速に自動化が進んでいる。格安の労働力が残されている地域がそう残っていないからだ。多くの専門家は、外国の安い労働力を使う時代には終わりが来ると見ている。世界中で生活水準が上昇しているからだ。

トランプ支持者は同氏を大統領に選んでも、地球上の他の労働者全てと競争している現実からは逃げられない。しかし世界中の工場で自動化が進み、労働集約型産業がなくなっていく傾向は、シリコンバレーの多くの人にとって常識であり、避けられない進歩の一部でしかない。

従って、IT文化とトランプ氏の主張が衝突することは必至であり、進化を受け入れるのではなく保護主義に戻ろうとするトランプ派の動きとは多かれ少なかれ対立が起きるだろう。事態が深刻になれば、大げさな仮説かもしれないが、シリコンバレーがこぞって隣国カナダに移住してしまう可能性もある。なぜならシリコンバレーのエリートたちは既に地元や米国の非業界人とよりもむしろ、世界中のIT業界エリートとの結びつきの方が強いからだ。そして、設備投資がほとんどいらず、免許制でもなく、非常にモビリティーの高い業界なのである。働くうえでより良い環境があれば、移住の決心にもそう時間はかからない身軽な業界なのだ。

今後もシリコンバレーは進化を求めることを止めないだろう。トランプ氏の選挙戦中の主張と、米国IT業界は決して相容れるものではない。しかし、現実にトランプ氏が、米国IT業界と今後どのような関係を築いて行くかはまだ未知数である。トランプ氏が本当にアップルの工場を中国から取り戻すつもりなのかどうか、まだわからないからだ。

以上、Wall Street Journal紙より要約・引用しました。

http://www.wsj.com/articles/new-populism-and-silicon-valley-on-a-collision-course-1478814305

Tuesday’s election by Donald Trump was an expression of voter angst that heralded a new type of populism. For Silicon Valley, it also marked the ascension of a vision starkly at odds with its own.

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